AFFECTUS No.652
コレクションを読む #8
半袖のシャツなのか、ジャケットなのか。定義を曖昧にする黒いシャツから幕を開けた「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」2026SSメンズコレクション。ノッチドラペル、フラップポケット、二つボタン。ディテールは明らかにテーラードジャケットのものだった。だが身頃にダーツはなく、身頃のパターンは前後二面構成のように平面的で、袖丈も肘より短い。それはシャツのようだった。
▶︎正道から外れた男たちの一丁羅を仕立てるヨウジヤマモト
男臭さを最も美しく仕立てた、2022AWシーズンのヨウジヤマモト。
ジャケットともシャツとも判別できない服の下には、黒と白を切り替えたシャツが覗く。首元では黒と白、二種類の色の襟が重ねられていた。ボトムは股上の深いルーズパンツ。サンダルを合わせたその姿は、怠惰でありながら軽やかでもあった。矛盾そのものがショーの冒頭を飾っていた。
6月に発表された今回のコレクションは、「黒」「テーラード」「ドレープ」といったヨウジヤマモトの象徴的要素で構成されている。だが従来と異なって感じられたのは“若さ”だった。その象徴となったのがボトムである。
膝上、あるいは膝下で止まる丈。ショーツというよりハーフパンツに近い。シルエットは従来と同じくルーズだが、丈が短い。それだけでルックに若さが宿っていた。
さらに印象的だったのは素材感だ。透けるほど薄い黒の布。男たちの体の輪郭をわずかに覗かせ、従来の野性味よりも繊細さを纏わせている。色彩ではブルーが記憶に残る。パープルに近い色調も混ざり、主にプリントとして使われていた。水中で植物が揺らめくような淡いグラフィックは、男たちの心の揺らぎを映し出すようだった。
この「揺らぎ」こそが、このコレクションに若さを感じさせた理由だ。
▶︎「制服」としてのラフ シモンズとポスト アーカイブ ファクション
感情と構造。ユニフォームを若者の“揺らぎ”として読む。
ドレープで波打つ黒、健康的に脚を見せるハーフパンツ、薄手の生地から透ける肌。そして幻想的なプリントが、その揺らぎをさらに拡張していた。
若さとは何か。それはまだ定まらない「心の状態」ではないか。経験を重ねた人間は判断基準を持ち、迷いながらも覚悟を決める強さがある。だが経験が少ない者は、決断した後ですら問い続ける。
「この選択でいいのだろうか?」
そんな揺れ動く心は未熟かもしれない。けれど、そこには文学的なエレガンスがある。
2026SSのヨウジヤマモトは、そうした心の揺らぎを随所に振り撒いていた。黒い布の上で、瑞々しくきらめかせながら。
一目見て驚いた今回のメンズコレクション。まるでブランド内で、次世代への引き継ぎが始まったかのようだった。ヨウジヤマモトのダンディズムを、軽やかでフレッシュなスタイルへと転換し、新しい魅力を提示していた。山本耀司の美意識が現代化された姿である。この瑞々しい感性を、重厚な秋冬のコレクションでも確かめてみたい。
〈了〉
▶︎かつては嫌いだった服が、今は好きな服へと変わる
時間が変える感性。価値観の更新は、最も刺激的な体験を生む。