Show: Ancellm 2026SS

山近和也の「アンセルム(Ancellm)」が、初のランウェイショーを開催した。9月1日、会場は新宿住友ビル三角広場。9月になっても暑さが収まらない。夜の道を歩いていても、汗が滲む。屋外から地下に降りると、広大な空間が広がり、ひんやりとした空気が熱を冷ましてくれた。大きな梁が張り巡らされ、ガラスが覆う天井は赤い光が伸びていた。

新宿には高層ビルが並ぶ。その中でも高層ビル群の中心と言える場所がショー会場だった。アンセルムの服は、ほつれ、汚れ、燻みなど「経年変化」が軸となっている。発展し続ける街と褪せていく服。会場と服の間にあるギャップが、感傷を呼ぶ。

ランウェイは至ってシンプル。細長い直線のランウェイ、その両脇に椅子が並ぶ。特別な演出や仕掛けはない。ただし、何もなかったわけではない。ランウェイの幅が狭かった。モデルが目の前を通り過ぎるような距離感だった。人間が着た服の表情を見て欲しい。そんなメッセージがあったのかもしれない。

ショーが始まる。8月に訪れた展示会で見た服が「スタイル」として現れた。

シャツ、パンツ、ジャケット。クラシック、ミリタリー。トラディショナルな服が淡い表情の素材で仕立てられ、着こなしに緊張感はなかった。シャツを着た胸元は少し肌を多めに見せ、ドロップした肩先はくつろぎを見せる。そのリラックス感は休日のような完璧なくつろぎではなく、仕事を終えた後のようなくつろぎ、疲労が残っているくつろぎとも言うべきもの。アンセルムの服は真新しさを経た後の状態が、このブランドにとっての「新しさ」。服はスタイルに滲み出すのだと改めて学んだ。

生地をキャンバスに見立てた鑑賞作品。初めて展示会で見た時から抱いた、加工が施された生地は初めてのショーでも印象は変わらなかった。加工技術そのものの美しさが表現されている。アンセルムの生地には、そんな魅力がある。

切りっぱなしの裾から糸が揺れる。色褪せたデニム生地は、曖昧な色彩を見せる。ほどけた糸が儚げで、無骨な服が柔らかく優しい。ランウェイの幅が狭いショーは、やはり服が間近に感じられた。

アンセルムは目を惹く大胆さがあるわけではない。静けさで人を惹きつける服だ。

今、ファッションの潮流は「ミニマル」「クリーン」に傾いている。長らくトレンドだったビッグシルエットも、スリム化している。服は「綺麗に見せること」が時代の中心になり始めている。その中で見られるのは、上質な生地を綺麗に作るというアプローチ。「綺麗な服を、綺麗に作る」と言えるものだった。

一方、アンセルムは「汚れた服を、綺麗に作る」だと言える。素材に施された加工は、まっさらな新しさとは異なる表情で、“視点を変えた経年変化の提案”というブランドコンセプトが徹底されている。だが、縫い上げられた服から抱くのは綺麗さだった。退化し、汚れていく服。その服を綺麗に作って、綺麗に見せる。アンセルムのアプローチは、従来のミニマルやクリーンの定義を捻っていく。そこに感じるのは、ファッションの「次」だった。

次はどんなアンセルムが見られるのだろうか。期待で高まった熱さは気持ちいい。

〈了〉

ショーのフィナーレ映像 → Instagram

Official Website:ancellm.com
Instagram:@ancellm_official