Chika Kisada 2026SS Collection

「チカ キサダ(Chika Kisada)」の2026SSコレクションは“Trace”をテーマに制作された。コレクションと共に発表された一編の詩を読むと、記憶・光・衣服が折り重なる情景が立ち上がる。ランウェイに現れたルックもまた、現実と幻想の断片を縫い合わせるかのようだった。ミリタリー、ワーク、クラシック、服飾史において普遍とされるアイテムと、レオタードやシアータイツ、セカンドスキン的な衣装、あるいは前衛的な造形が、同じ地平に並べられていた。

ロゴTシャツには、青と白のストライプで仕立てられたスカート。裾にはパッドが詰められ、膝のあたりで不規則に膨らむ。二つのアイテムは、カギホックの列が媒介となり、一体化して見える。実際にはドッキングされた一着だが、視覚的にはコルセットのレースアップを思わせる結び目が、異なる服を結合する役割を果たしていた。同様に、白いTシャツとジーンズも、繭の糸に包まれるように一つに溶け合っていた。

一方で、モノによる媒介を介さず、スタイリングそのものが橋渡しになるルックもある。ファーストルックのトップスとシアータイツ、そこに重ねられたワークテイストのジャケット。素材もカテゴリーも異なる要素が、単なる「コーディネート」ではなく「媒介」として結びつき、ひとつの身体像を描き出す。

こうして立ち上がったのは、調和の美しさではなく、繊細なノイズだった。

そのノイズを見ていると、ネットのコメント欄が思い浮かぶ。記事本文を流し読みし、コメント欄に並ぶ感情から“自分の感想”を形づくっていく。記事そのものではなく、他者の感情が媒介となって立ち上がる感覚。では、そのときの感情は本当に「自分のもの」と言えるのだろうか。

チカ キサダの“Trace”は、服のカテゴリーをずらし、服のイメージを重ねる。その重なりの中で、私たちが「自分」と呼んでいるものの輪郭すら、曖昧に揺らいでいく。

Official Website:Chika Kisada
Instagram:@chikakisada