AFFECTUS No.683
ファッションが読まれる #8
先日、改めてさまざまなブランドのコレクションをチェックしていたら、感じたことがあった。
「今はトレンドがないな……」
ここでいうトレンドは、世界中に影響を及ぼす一つのスタイルのことを指す。メンズ、ウィメンズ、数多くのルックを調べていると、現在の大きな潮流がわからなくなってしまったのだ。
▶︎トレンドを本当に無視することはできるか?
トレンドと距離を取るという選択は、可能なのか。
→ AFFECTUS No.611(2025.3.26公開)
ビッグシルエットがボリュームダウンしている、服のシンプル化が始まっている、デザイナー個人の背景を投影したコレクションの増加といった傾向はあるが、ではそれが大きな波になっているかというと、そうでもないという実感を覚えた。思った以上に装飾的な服を発表しているブランドは多いし、シルエットもオーバーサイズがまだ多い。デザイナーが体験した文化や体験を投影するコレクションは確かに多いが、結果的に発表される服はブランドそれぞれデザインが異なるので、外観にトレンド的統一感はない。
▶︎2026年の春夏、ビッグシルエットは終わるのか?
シルエットという一点から見えてきた、次の変化の兆し。
→ AFFECTUS No.637(2025.7.9公開)
世界の価値観をひっくり返すスタイルは、大きなトレンドが世界を支配している時に生まれる確率が高い。直近で言えば、10年ほど前に遡る。これまで何度も触れてきた「ヴェトモン(Vetements)」だ。ヴェトモン誕生以前、トレンドはノームコアにあった。無印良品の服と思えるほどに、究極にシンプルな服が世界中で人気となり、ランウェイもシンプルな服を発表するブランドが増えた。
ファッションウィークにもノームコアの影響があるのか。そんなふうに思うほど、ノームコアのパワーは想像を超えていた。そんな時代をひっくり返したのが、ヴェトモンだった。ビッグシルエットという形容では物足りないオーバーサイズ、視覚に訴えるグラフィカルなデザインは、ノームコアの対極をいくファッションだった。
戦時中の質素な服へのカウンターとして生まれた「ディオール(Dior)」のニュールック、戦争を終えて未来への視線が強くなった1960年代のコスモコールルック、未来志向の1960年代と逆行するフォークロアなど、歴史を振り返ってみても、世界のトレンドが一つに集約している時、新しいファッションが生まれやすくなる。
しかし、今は小さなトレンドがいくつも同時並行している状態だ。これでは、新しいファッションが生まれる条件が整っているとは言い難い。細かいトレンドを整理して把握する。現在の細分化した潮流を正確に掴むことで、次のファッションが生まれるのではないか。そんな気がした。
だが、新しいファッションが生まれるために必要なのは、細かいトレンドではなく大きなトレンド。でも、その大きなトレンドとは「新しいファッション」のことで、新しいファッションが生まれる為には、世界が大きなトレンドに支配されている必要がある。でも、現在はトレンドが細分化している。これではいつまで経っても、新しいファッションが生まれない。永久機関の完成?
いや、でも、この状況でもいつかきっと、新しいファッションが生まれるんだと思う。ここで述べてきた考えが笑い物になる日が来るのだろう。その時、どんな状況のもとで新しいファッションが生まれたのか、その時の世界をじっくりと観察して、その構造を記録したい。
〈了〉
▶︎トレンドと逆行しても、なお新鮮-セリーヌ 2026SS
分散した時代のなかで、成立していた“逆行”という選択。
→ AFFECTUS No.670(2025.11.5公開)