普通の服に、従わされている-プラダ 2026AW

AFFECTUS No.693
コレクションを読む #24

ほっそりとしたダブルのコートはポケット位置が高く、ポケットに入れたモデルの両腕は鋭角に曲がり、窮屈そう。ステンカラーコートの襟周りと前端、裾の一部は、絵の具が剥がれかかった絵画のように、無地の生地は剥がれ、その下からチェックの生地が覗く。端正なメンズトラウザーズに合わせているのは、太幅のショルダーストラップが目立つニットのタンクトップ。アンダーウェアなのか、トップスなのか、着用方法に迷う一着だ。

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本来、服とは着やすく、どこで着るものか、判断しやすいものであるべきだろう。しかし、「プラダ(Prada)」の2026AWメンズコレクションは、ベーシックな外観とは裏腹に、ルックを見ていくと戸惑いが頭の片隅に積もっていく。

「これは、私の知っている服なのか?」

昔からの友人が、突然性格が変わってしまったかのような、それに似た感覚だ。

フィールドコードの胸から下をバッサリとカットした服を、ベーシックな生地のコートの上から重ね着しているルックがある。そのスタイリングを見ると、

「なぜ、こんな着方を?」

と疑問が生まれてくる。

ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)は、「普通の服」でファッションの常識を揺らす。激しい揺さぶりではない。ささいな、違和感と言うべき程度の揺さぶりだ。

しかし、引っ掻き傷のようにその違和感が頭の中に残っていく。

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iPhoneは、シンプルで使いやすい製品だと言われてきた。しかし説明書はなく、最初の操作で戸惑うことも少なくない。かつて当たり前のように付属していたイヤホンや充電アダプタも、今は姿を消した。理由はもっともらしく語られるが、利用者の感覚としては、ただ不便になったという印象が残る。

それでも私たちは、その不便さに抗わない。気がつけば、AppleユーザーはAppleの世界のルールに順応した住人になっている。

プラダの2026AWメンズコレクションが提示しているのも、よく似た構造だ。

最先端のファッションは着心地の良さよりも、先に「従わせる力」を持つことがある。

「この服は、こう着るべき」

通常であれば「強制」は居心地のいいものではない。受け入れ難いものとして、拒否することだってあるだろう。しかし、Appleと今回のプラダを見ていると、美しさを追求した果てのプロダクトは、違和感を感じながらも強制を受け入れさせる効果をもっているように感じられてきた。

そして、身体が慣れてしまえば、当初の違和感はどこかへ消えてしまう。

私たちの周りには、数えきれないほど多くのアプリ、サービス、ファッションがある。その中から自分の気に入ったものだけを選んでいる。そう思っている。だが、選び取ったアプリやサービス、コートやジーンズには、その世界のルールがあり、従わざるを得ないことが多々ある。自由でいて、実は自由ではない世界。それが現代ではないだろうか。

プラダの2026AWメンズコレクションには、そんな現代社会のルールが滲み出している。剥がれかかった無地のコートの前端、その隙間から現れるチェックの生地。そこには、かつての「普通」や「安心」がまだ残っている。しかし、それを表に出すかどうかは、もはや服ではなく、着る側に委ねられている。そこが居心地いいかどうかは、あなた次第だ。

〈了〉

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