基本に忠実な服が新しい

AFFECTUS No.706
ムーブメントを読む #13

1月のメンズファッションウィークが終了し、間を置いて始まったロンドンからコレクションをチェックしていると、2026AWシーズンの兆候で気になることがあった。それは、基本を忠実に実践することに近いものだった。例えるならこうである。

▶︎ 関連コラム
なぜ今のファッションは「解釈のデザイン」ばかりなのか
→ AFFECTUS No.704(2026.03.11)

レッドカーペットで映えるドレスと聞くと、あるイメージが思い浮かぶ。スリムなシルエットで、トレーンを引き、深いVネックにノースリーブ、真っ赤な生地のロングドレス。そうしたイメージである。今シーズンのコレクションを見ていると、あるファッションの名前を聞いた時、そのイメージがそのまま再現された服が多いように感じた。

テーラードと聞けば、シックな素材と落ち着いたトーンの色味、凛々しく端正なシルエットが思い浮かぶ。そのイメージを崩すような、例えばラペルをドレープ状に作ったり、生地を極端に薄くしたりするような発想の捻りではない。むしろ、カテゴリーのイメージをそのまま実践するような服が目立っていた。

これまで私はコレクションを見る時、「クラシックがベースにある」と感じたら、そのクラシックをどのように捻って見せているのかに注目してきた。しかし2026AWシーズンに限って言えば、そうした捻れの発想に出会うことが少ない。コレクションを見ながら、どこか気分が上がらない感覚が続いていた。

「今シーズンは普通が多いな」

最初はそう思っていた。新しいはずのコレクションなのに、どこか見慣れた服ばかりが並んでいるように感じたからだ。しかし、あまりにも基本をなぞるコレクションが多いことに気づき、次第に考えが変わっていった。もし捻れの発想ばかりに注目していたら、今シーズンの新しさには出会えないのではないか。自分の見方を改める必要があるのではないか、と。

注目すべきは捻れではない。むしろ、「どれだけ基本に忠実なのか」という点なのではないか。あるいは「そういう基本もあったのか」という発見や、「どの基本を選択しているのか」という視点でコレクションを見る必要があるのではないか。つまり、カテゴリーのイメージを裏切るのではなく、そのイメージをどこまで純粋に実践しているのかを見るということだ。

これはなかなか厄介な状況でもある。基本に忠実であるということは、驚きが少ないということでもある。だからといって、単純に精度の高さを見ればいいという話でもない。

ファッションには数多くのカテゴリーが存在している。テーラード、ミリタリー、ワークウェア、スポーツ、イブニングウェア。

▶︎ 関連コラム
ハイコンセプトでベーシックなJ.W.アンダーソン
→ AFFECTUS No.41(2017.06.21)

もし基本に忠実な服を複数組み合わせてスタイルを作るのであれば、それは従来の「捻り」の発想と大きく変わらない。異なるカテゴリーを掛け合わせる方法は、これまでにも数多く試みられてきたからだ。

しかし今シーズンに見られた兆候は、そうした発想とも違う。カテゴリーのルールを忠実に実践する服が、コレクションの中にそのまま現れている。

だからこそ評価が難しくなる。捻りや違和感があれば、それはすぐに「新しい」と判断できる。しかしカテゴリーに忠実な服は、その基準では評価できない。驚きではなく、別の観点でコレクションを見る必要が出てくる。

もしカテゴリーを忠実に表現するコレクションが、本格的なトレンドになったとしたらどうなるだろうか。そのとき、ファッションをどう評価するのかという基準そのものが揺らぎ始める。そこでは、肯定も否定も渦巻く、混沌とした状況が生まれるはずだ。

〈了〉

▶︎ 関連コラム
トレンドがあると、やっぱり面白い
→ AFFECTUS No.41(2017.06.21)