シンプル。しかし、ミステリアス-ロロ ピアーナ2026AW

AFFECTUS No.707
コレクションを読む #33

「ロロ ピアーナ(Loro Piana)」が覚醒している。この現象について取り上げたのが、2024年3月。あれから2年が経過し、イタリアの生地ブランドは、さらにクリエイションのレベルを上げている。ルックを通して伝わるのは、生地の上質感。そのクオリティを活かすように、フォルムはシンプル。そう述べると、ベーシックな服を思い浮かべるかもしれない。

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たしかにデザインはシンプルだ。しかし、ロロ ピアーナのシンプルはミステリアス。2026AWコレクションは服の国籍が不明瞭。ノマド、民族、英国、東ヨーロッパ、中国、オリエンタル、クラシック。様々なファッションがイメージされてくる。

造形面で言えば、豊かで優雅なボリュームがあるかと思えば、ボディラインをしっとりと舐めるシルエットもある。テーラードジャケットやワークジャケット、ジーンズ、クリースを入れたパンツはクラシックだが、中国美術を彷彿させる柄、立体感が抑制されたロング丈の衣服はオリエンタルが滲む。

注目は一本のパンツ。一見すると淡いベージュのスウェットパンツだが、膝のあたりで形が異様に膨らみ、裾に向かって絞られている。その形状は果物のバナナを思わせる。

形そのものはシンプル。しかし、イメージは前衛的。ゆえにミステリアス。この構造がコレクションの核心で、ロロ ピアーナのクリエイションの秘密でもある。

では、なぜこのような現象が生まれるのか。

ロロ ピアーナは装飾を加えているわけではない。むしろ逆だ。形は徹底的に削ぎ落とされている。直線的なシルエットのコート、オーソドックスなジャケット、ウエストがドローストリングのカジュアルパンツ、単純な筒状、円柱状の帽子。どのアイテムも、一目で理解できるほどに単純だ。

本来、シンプルな形は意味を固定する。テーラードジャケットであればクラシック、ワークジャケットであれば労働着、スウェットパンツであればカジュアル。形が明確であればあるほど、服はどこかの文脈へと収まっていく。

しかし、ロロ ピアーナには安定した形の上に乗っているものが一貫していない。英国的なツイード、中央アジアや東欧を想起させるボリューム、中国的な装飾や襟元の処理、遊牧民的なレイヤリング、西洋クラシックのテーラリング……。

通常、服はどこかに帰属している。「これは英国的」「これはミリタリー」「これは民族衣装的」といったように。しかし、このコレクションは違う。英国にも見えるが、完全ではない。民族衣装にも見えるが、具体性がない。オリエンタルにも見えるが、どの地域とも断定できない。

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シンプルとは本来、「意味を削ぎ、認識を明確にする」ものだ。しかしロロ ピアーナは逆をやっている。形は単純。認識は安定する。しかし意味は多層。ゆえに、コレクションは国籍が特定できない。このズレによって、「見えているのに、分からない」状態が生まれている。これが「シンプルだが、ミステリアス」の構造を生み出している。

ロロ ピアーナは通常のファッションブランドではない。生地が起点になっているブランドだ。ファッションブランドなら、特有のスタイルを持っている。しかし、テキスタイルハウスであるがゆえに、ロロ ピアーナに固有のスタイルはない。イメージはあるだろう。イタリアンクラシックのような服を作るという。それは、スーツなどクラシックな服の素材として使われているという事実から、生成されたイメージに過ぎないのではないか。

生地は、本来どんな服にも使われていい。それが生地のアイデンティティである。ロロ ピアーナは生地が持つアイデンティを形にしたにすぎない。どんなスタイルにもなり得るという。その結果、生まれたのは解釈を強制しない服であり、意味を固定しないラグジュアリーである。

〈了〉

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