Rolf Ekroth 2025AW Collection

フィンランドのブランド「ロルフ エクロス(Rolf Ekroth)」を初めて知ったのは、今から3年前。2022AWシーズンだった。ワークウェアとストリートのエッセンスが混じり、丸みを帯びたボリュームあるシルエットの服は、シリアスでありコミカルだった。だが、決して明るくはない。思うようにいかない日々のなか、一人ベッドの上でInstagarmを見ていたら、ふと笑えるリール動画に出会った。そんなふうに、ほんのりと暗いユーモアがエクロスの服には滲んでいた。

その後、2024AWコレクション、2025SSコレクションと、エクロスはノスタルジックでカントリーなスタイルを発表する。ボタンとしての役目を失い、飾りとして縫い付けられたくるみボタン、雪綿のように白くふわふわとした球形のモチーフを大量に取り付けたニット、デニム生地を土壌に、タンポポを咲かせたかのようにメルヘンなジーンズ。ロルフは暗さから距離を取り、幻想的なコレクションを披露し、見る者の心を優しく包み込む。

しかし、2025AWコレクションでエクロスは「暗さ」に立ち返る。シーズンテーマのタイトルは
‘NO DISTANCE LEFT TO RUN’ 。このコレクションに対するエクロスの思いを知ると、「もう逃げ場はない、向き合うしかない」といった意味がふさわしく感じる。

エクロスは、太陽が何週間も昇らない北国の冬を生き抜く厳しい現実から、インスピレーションを得て最新コレクションを制作した。語られるその想い。

「私たちは否応なく『太陽崇拝者』となり、それぞれの方法で終わりのない夜を乗り越えます」

暖かな日差しが感じられない日々を過ごし続ければ、太陽は単なる自然現象ではなく、祈りの対象へと変わる。

コレクションには象徴的なディテールが登場する。それがジグザグのカッティングだ。チェック生地は長方形状に裁断され、生地端がジグザグにカットされている。その様子は、宗教画に出てくる太陽の絵と重なった。

ジグザグのチェック柄パーツはパンツの上に取り付けられ、鋭く波打つ先端は、足元に向かっている。太陽を象徴したと思えるディテールは、上ではなく下を向く。太陽に背を向けるように。

コレクション全体の色彩は、深みのあるネイビーやパープル、ブルー調が主軸になり、ダークトーンにまとまっていた。レッドやパープルのチェック柄は登場しても、やはり暗さがこびりついている。スタイルはアウトドアやワークウェア、ストリートが混じり合うエクロス・スタイル。だが、2024AWや2025SSとは違い、全体のトーンが沈んでいるため、かすかにアンダーグラウンドな香りが漂う。

エクロスはランニングをセラピーとして愛している。けれど、今年は思うように走ることができず、辛い時間を過ごした。その体験がベースになり、フードアウターやトラックパンツといったアクティブなウェアには沈んだ表情が宿る。

近年の朗らかに笑えるコレクションから一転、エクロスは自分が生まれ育った国の現実を描写する、ダークトーンのコレクションを発表した。

やはりエクロスは暗い時が一番輝くと実感する。

ファッションはデザイナーの「個人史」が表現されると、眩しく輝く。その人生が明るいものでなかったとしても、服は人の心を捉える輝きを放つ。今回のコレクションは、エクロスが自分を取り巻く現実と向き合ったからこそ、根本的な魅力を持った服が生まれたのではないか。

また、2025AWコレクションがそのダークさにも関わらず好印象だったのは、私の「暗さに惹かれる」という性質が影響したかもしれない。

人間は、負の感情を抱える時がある。その負の感情を否定するのではなく肯定する。そういう負への優しさが、「頑張れ」という励ましよりも、勇気づけられることがあるのではないか。そんな人のための服があってもいい。90年代のアントワープファッションがそうであったように、内面の影や不安を服に映すことで、逆に希望の輪郭が浮かび上がってくる。

テーラードのコートに袖を通し、キャップのつばを取り付けたフードを深く被り、太陽の視線を遮るようにその庇で視線を半分隠す。そんなスタイルで登場したファーストルック。会いたい人に会えたのに、気恥ずかしくて距離を保つ。なんだかそんなふうに感じられたファーストルック。やっぱり、ロルフ エクロスには暗いユーモアが似合う。

Instagram:@rolf_ekroth