FEMININE STUDY #3 スリーパーは理想像に縛られない

AFFECTUS No.649
デザイナーを読む | FEMININE STUDY #3
ケイト・ズバリエヴァ&アーシア・ヴァレッツァ

ベッドから直接会議室へ。パジャマがオフィスウェアになる。そんな「夢」のような服を現実にしたのが、2014年、ウクライナ・キエフを拠点に始動した「スリーパー(Sleeper)」だ。創業者は、ケイト・ズバリエヴァ(Kate Zubarieva)とアーシア・ヴァレッツァ(Asya Varetsa)。二人は豊富なキャリアを積んだデザイナーではなく、ファッション誌のエディターとして業界経験を重ねてきた人物だった。ブランド誕生のきっかけとなったのは、ズバリエヴァが「パジャマ工場の真ん中に立っている夢」をクリスマスに見たことだった。

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彼女たちが掲げたコンセプトは“walking sleepwear”。寝ても着られるウェア、すなわちナイトウェアでありながらデイウェアでもある服だ。従来「非日常の象徴」とされてきたラグジュアリーを、日常に忍び込ませる。スリーパーはその姿勢を「ミッドラグジュアリー」という立ち位置で提示し、Instagramで約46万人のフォロワーを持つグローバルブランドへと成長した。

シグネチャーの「パーティーパジャマ」は、トップスのシャツは端正なラインを描き、ほどよい寛ぎを感じさせる。パンツはフレアシルエットを描き、1970年代のヴィンテージデニムのような趣。しかし、もちろん素材はインディゴの綾織生地ではない。ブランドの象徴であるパジャマはビスコースで仕立てられ、滑らかな質感を肌に残す。

袖口や裾には取り外し可能なダチョウの羽根のカフスが添えられ、名のとおり「パーティー」の華やぎをまとわせる。ナイトウェアに夢と遊び心を加えた一着である。

▶︎今はパトゥがカワイイ
境界を軽やかに越える「カワイイ」を読み解く。

スリーパーの世界はパジャマにとどまらない。ストリートも、自分たちの世界に書き換える。ハリントンジャケットには伝統的なタータンチェックの裏地を配し、オーセンティックな空気を保ちながらも、胸元には2023年に刷新されたロゴ、黒い馬が黄色い花を飾る「ダークホース」のシンボルを刻んだ。ストレッチコットンのスウェットシャツもまた、ワイドなシルエットに短めの着丈を組み合わせ、胸には馬のロゴをモノトーンでプリントしている。いずれも、ベーシックな形にブランドのメッセージを忍ばせた服だ。

ブランドサイトには、こう記されている。

「私たちのクラフト(ものづくり)を通じて人々を鼓舞し、日常のひとときを〈個性と人生を祝う時間〉へと変えること」

さらに続く。

「私たちは、あらゆる人生を歩む女性たちをエンパワーする服づくりに取り組んでいます。才能あるアーティスト、勇敢なヒーロー、未来を育む母親、笑いを広げる人々、挑戦する女性、癒す心──そのすべての人のために私たちは創造します」

ズバリエヴァとヴァレッツァが描くフェミニンは、ある特定の理想像に閉じ込められるものではない。ベッドルームであれストリートであれ、さまざまなシーンを生きるすべての女性に寄り添う。

スリーパーが創り出しているのは「日常を祝祭に変えるフェミニン」にほかならない。

〈了〉

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