普遍と実験、その狭間に立つザ ガーメント

AFFECTUS No.656
ブランドを読む #6

デンマーク発の「ザ ガーメント(The Garment)」は、北欧らしいミニマリズムをベースにしたウィメンズブランドだ。シルエットはクリーンで、色彩はニュートラル。ワードローブに長く置ける普遍的な服を提案する姿勢は、一見すると「ベーシック」という言葉に回収されそうになる。だが、その削ぎ落としはただの無個性ではなく、形にある種の「歪み」を取り入れ、個性を打ち立てている。静かながらも訴えかける個性を。

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ザ ガーメントの服を見てまず感じるのは、北欧デザインに通じる静けさだ。白、黒、グレー、ベージュといったニュートラルな色調。誇張されたとしても、柔らかさと優しさが滲むシルエット。大きな装飾や奇をてらったデザインはほとんどなく、目に映るのは「着るための服」である。

ただし、この普遍性には、凡庸とは言えない崩れが差し込まれている。たとえば、2025AWコレクションに登場した全身ホワイトのルック。ハイネックの薄手カットソー、白いカーディガン、白いミニスカート。ピュアなルックがランウェイを歩いた。だが、細い袖は手首を完全に覆い隠すほど長く、スカートのウェストには白い布を折りたたんだ造形が挟み込まれている。ミニスカートの上に、さらにレングスが短いスーパーミニスカートを重ねたような装いだ。スカートの重ねはそれだけで終わらない。ミニスカートの下には、脚の輪郭と肌を明確にする、シアー素材のロングスカートがレイヤードされていた。

定番的な形を守りながらも、定番をささやかに逸脱したデザインである。

ザ ガーメントの服には、普遍の影に小さな実験が潜んでいる。輪郭を少しずらし、ディテールは意識的に崩されていく。たとえば、2025プレフォールに登場したジャケット。肩幅が広く、スクウェアな形でマスキュリン。しかし、背後を見れば、後ろ身頃の中心にスリットが上から下まで大胆に入り、その隙間を2つのリボンだけが橋渡しする。

それは正面から見れば、見過ごしてしまう差異だった。しかし、その差異こそが服を静かに揺らし、普遍を“ただのベーシック”に終わらせない。

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普遍と実験のあいだに位置している。それがザ ガーメットだった。ベーシックな色彩と形を守りながら、トラディショナルな規則からわずかに外し、静かな違和感を差し込む。だからこそ、服は「タイムレス」を装いながらも、内側に小さな更新を積み重ねていく。

その更新は声高ではない。むしろ控えめで、気づかずに通り過ぎてしまうほどのものだ。しかし、普遍の強度を持ちながら、ささやかな実験を内包することで、ザ ガーメントは「今」を映す。それはフェミニンなルックの影に隠れた、鋭利な刃物と言えるものだ。トレンドを過剰に追わない。見つめるのは愛されてきたベーシックの佇まい。

ザ ガーメントは、普遍を守るブランドではない。かといって、実験を前面に掲げるブランドでもない。両者の狭間に立ち、ベーシックの輪郭を揺らし続ける。シンプルなタイトスカートの裾から、もう一枚の布が覗く。それは肌を透かすほど薄い。淡く繊細なテキスタイルが、ザ ガーメントの在り方を主張する。

〈了〉

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