注目のミニマリズム派 #5 「リー」ゼイン・リー

AFFECTUS No.657
デザイナーを読む | 注目のミニマリズム派 #5
リー|ゼイン・リー

中国・重慶出身の青年は、ニューヨークのFITを卒業すると、すぐに自身のブランドを設立した。デビューとなった2025SSコレクションは早々にヴォーグ・ランウェイ(Vogue Runway)に取りあげられ、わずか2シーズン目の2025AWからは拠点をニューヨークからパリへと移す。

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一昔前のファッション界では、学校を出たばかりの若者が次々とブランドを立ち上げていた。しかし今は、多くのデザイナーが名門校を経て名だたるブランドで経験を積み、満を持して独立するのが常道となっている。そんな時代にあって、彼は異例なまでに駆け足で駆け抜けていく。その名はゼイン・リー(Zane Li)。鮮やかなカラーブロックを軸にした「リー(Lii)」は、懐かしくも新しいミニマリズムを提示している。

リーはデビューコレクションからすでに個性を確立していた。だからこそ、早くから注目を集めたのだろう。初の発表となった2024AWは、赤・黒・白・紺の布地を軸に用い、平面的で直線的なカッティングによる、抽象的なフォルムのドレスやコートが多く並んだ。例えるなら「着物の洋服化」とも呼べるデザインである。

服は立体感を最小限に抑え、直方体の中に身体が収められているかのようだ。その直方体には袖やクルーネックといった服のパーツが接続され、衣服としての体裁を最低限確保している。

着物と決定的に異なるのは、随所に非対称性が取り入れられている点だ。その非対称は左右だけでなく前後にも及ぶ。片袖だけのトップス、後ろ身頃の腰付近に走る大きな切り込み、外側にスリットの入った袖。直線的なシルエットでありながら、硬質には見えない。

むしろ流動性こそが、この服の本質にある。折りたたまれた布のフォルムは、ソリッドな構造の中に流動性を生み、静止画のようでありながら、着用者の動きをダイナミックに見せる。そして、境界を鮮明に分けるビビッドなカラーブロックが、コレクション全体を抽象絵画のように見せている。

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伝統を重んじるメンズウェアにおいても、彼は同様のアプローチを見せている。シャツやテーラードジャケットといった服の輪郭はウィメンズよりも残されているが、やはりその印象は硬質でありながら、どこか浮遊的だ。身体を覆いながらも、布が意志を持つように漂っている。

クリストバル・バレンシアガ(Cristóbal Balenciaga)が、もしメンズウェアを制作していたら。そんな空想を具現化したかのような服が、そこにはある。

9月に発表された最新2026SSコレクションは、ニューヨーク・ファッション・ウィークの公式スケジュールに組み込まれた。初のランウェイショーは、これまでで最も「服」を感じさせる構成だった。そのことをファーストルックから物語っている。

長袖、半袖、タンクトップ、異なる袖丈のトップスが幾重にもレイヤードされ、膝丈のコンサバティブなスカートと組み合わされる。そこには、リーの代名詞であるカラーブロックが差し込まれていた。Tシャツ、フード、スタンドカラーブルゾン、ステンカラーコート。2026SSには、これまで以上に「服の輪郭」が明確なルックが並んだ。

だが、硬質な抽象性が薄れたわけではない。初期から続くアブストラクトなドレスは健在であり、非対称性と流動性、そして鮮烈な色彩が織り込まれている。

リーのデザインを言い表すなら「ミニマリズム」がもっとも近い。しかもそれは、ニューヨークの王道を継ぐソリッドなミニマリズムだ。ただし、1990年代に最盛期を迎えたニューヨーク・ミニマリズムと比べると、よりソフトであり、よりスポーティでもある。

鮮やかでありながらクールな服。それは、ニューヨークからニュースター誕生の予感をさせる。

〈了〉

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