トレンドがあると、やっぱり面白い

AFFECTUS No.664
ファッションが読まれる #5

今は、大きなトレンドがない時代だと思う。ここで言う「大きなトレンド」とは、エディ・スリマン(Hedi Slimane)の「ディオール オム(Dior Homme)」やデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)の「ヴェトモン(Vetements)」、あるいはノームコアのように世界を覆う規模の現象を指す。その規模のトレンドが、現在のファッションにあるかと言うと、正直ないと思う。

▶︎トレンドを創造的に解釈するエディ・スリマン
トレンドは独自性を奪うのか。それとも創造性を加速させるのか。エディが示したのは、後者だった。
→ AFFECTUS No.271 (2021. 8. 15公開)

トレンドというと、たくさんの人が着ている服・スタイルというニュアンスで、個性が埋没するみたいなイメージもあり、嫌われることもある。だけど、ファッションに夢中になって25年ぐらい経つけど、ファッションがめちゃくちゃ面白い時は大きなトレンドがある時だった。僕にとっては、だけど。

やっぱりトレンドにはパワーがある。その服、そのスタイルを好きになるにしても、あるいは嫌いになるしても、好きなる時はめちゃくちゃ好きになるし、嫌いになる時はめちゃくちゃ嫌いになる。このパワーが渦巻いている時こそ、僕的にはファッションが最も刺激的で、最も面白かった。

世界を熱狂させるビッグトレンドは個性が鮮烈だ。尖りに尖りまくっている。だから目立つし、たくさんの人の目にとまる。たくさんの人の目にとまれば、たくさんの人が好きになる可能が高まる。またその逆もあり、たくさんの人が嫌いになる可能性が高まり、そこからトレンドとは違うファッションを生み出そうとする人たちが、たくさん生まれることにもなる。

好きと嫌い、双方向から強烈な風が起きるから、ファッションが熱を帯びていく。だから、僕はファッションには常に大きなトレンドが渦巻いて欲しい。

今は、一つの大きなトレンドが支配している時代ではない。デザイナーがそれぞれの世界を丁寧に表現している。様々なスタイルがあること。それこそが、トレンドの時代なのかもしれない。

▶︎伊勢神宮の式年遷宮とハイクのデザイン
伝統をなぞり、わずかな差を積み重ねて更新する。その美学を現代に映したのがハイクだった。
→ AFFECTUS No.164 (2019. 8. 20公開)

冒頭から今は大きなトレンドがないと言っているが、大きなトレンドの芽がないわけではない。それを予感させる一つが、今の「オーラリー(Auralee)」。イギリスの「ビジネス オブ ファッション(The Business of Fashion、以下BoF)」が、2025年の「BoF 500」を発表し、オーラリーのデザイナー岩井良太が選出された。シーズンを重ねるたびに、世界で人気を高めるオーラリーは想像を上回る勢い。次の潮流の芽が感じられてくる。もし、オーラリー発のスタイルがさらに大きな畝りとなれば……。そんな期待も抱いている。

ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が「ディオール(Dior)」のメンズコレクションで披露した、前衛的ミニマリズムも面白そうな芽だと感じている。シンプル&クリーンなのに、その調和を見出す造形・ディテール・素材などが、服を構成する要素のどれかに紛れ込んでいる。

でも、一番望んでいるのは、新進の新しい才能が出現して、大きなトレンドを作り出すこと。それが最もファッションが盛り上がる。だから、新しいブランド、新しいデザイナーの情報はいつだって欲しい。現場で編集者やPR、セールスと話す時、「今、面白いと思うブランドは?」という話題によくなる。

スターになってからでは遅い。スターになる前に見つけたい、出会いたい。新しい才能よ、世界を熱狂で包むビッグトレンドを起こしてくれ。

ファッションはトレンドがあると、やっぱり面白いから。

〈了〉

▶︎その服にカルチャーを感じるか
時代の熱は、トレンドからカルチャーへ。人は、自分の「好き」を映す服に惹かれていく。
→ AFFECTUS No.385 (2022. 12. 7公開)