AFFECTUS No.677
コレクションを読む #21
子供のころ、『聖闘士星矢(セイントセイヤ)』に夢中になっていた。星座をモチーフに、聖衣(クロス)というアーマーをまとい、現代に蘇った神話の戦いに身を投じ、小学生男子が惹かれない理由がないマンガだった。なかでも十二星座を背負う黄金聖闘士(ゴールドセイント)は特別だった。自分の星座はどんな黄金聖闘士なのか。誰もが気にしていた。十二人と戦う「十二宮編」は、作品史上もっとも興奮して読んだシリーズだった。
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私は牡牛座だった。初登場した牡牛座の黄金聖闘士を見て「まあまあ……かな」という反応だったが、気の毒だったのは蟹座だった。あれは落ち込む。蟹座の同級生もがっかりしていた。私が憧れたのは双子座だった。黄金聖闘士の名前はサガ。Saga=宿命。そんな名前のキャラクターに惹かれない方が無理だ。黄金聖衣(ゴールドクロス)も抜群にかっこいい。何より、その二面性が「十二宮編」の鍵を握っていた。ネタバレは控えるが、あの設定と展開には痺れた。
まるで『聖闘士星矢』のレビューのようになっているが、書きたいのは「ジュンヤ ワタナベ(Junya Watanabe)」2026SSコレクションだ。私は以前からジュンヤ ワタナベには二面性があると感じていた。「アヴァンギャルド」と「クラシック」。この両極を、どちらも高い精度で造形できてしまう。その自在さは天才としか言いようがない。
私が今でも特別に記憶しているのは、クロード・モネ(Claude Monet)をモチーフにした2003SSと、ココ・シャネル(Coco Chanel)の幻影を抱かせた2003AWだ。2003年という年は、私にとってジュンヤ ワタナベ奇跡の一年だった。
そして10月に発表された2026SSは、その二面性が珍しく同居していた。ジュンヤ ワタナベは、アヴァンギャルドとクラシック、どちらかに重心を置くシーズンが多い。しかし今季は、両方が均質に立ち上がっていた。
シルエットはロング&リーンが主役。渡辺淳弥の細く長いシルエットの美しさを初めて知ったのは、20年以上前の2002AWだった。今季のコレクションには、その輪郭を思い出させる造形が随所にあった。象徴的なのはファーストルック。クルーネックのノースリーブ、床に触れるか触れないかのロングレングス。無地の黒。ウエストは緩やかな曲線で絞られ、腰回りはフィットし、裾へ向かってなだらかにテーパードしていく。渡辺淳弥のクラシックがもっとも美しく光る瞬間だ。
だが、このコレクションはクラシックに振り切れてはいない。ファーストルックから、すでにその徴があった。
肩に付いている赤いフリルだと思った装飾は、よく見ると「束ねられた赤いハイヒール」だった。布ではなく、靴。既存の造形をそのまま装飾として転用する大胆さが、クラシックの上に前衛を重ねている。
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うねる造形は他のルックでも強烈だった。3番目に登場したロング&リーンのドレスは、肩から胸、背中にかけてライトブラウンの布地が激しく波打ち、立体化し、生物のように這い回る。今度は靴ではなく布。しかし、迫力はファーストルックを凌いでいた。
さらに、建築の骨組みに布を張り巡らせたような黒のドレスもある。また、黒い帯のような直線が上半身を取り巻き、身体から浮遊しながら交差していくドレスも登場した。拘束と解放が同時に存在するような、不穏で魅力的な造形だった。
ヒール、建築の骨組み、既視の造形から前衛を立ち上げるのは、ジュンヤ ワタナベの得意技だ。それを今回は、クラシカルな細いシルエットの上に置いている。そのコントラストが鮮烈だった。
既存の造形は服そのものにも及ぶ。トレンチコート、チェックのロングシャツは半壊したように再構築されている。なかでもロングシャツが面白い。二着のシャツをハンガーに掛けたまま前後から挟み込み、一着のロング丈へと再編集する。発想はシンプルだが、視覚のインパクトは大きい。
2026SSコレクションは「読み応え」がある。渡辺淳弥の二面性が、姿を現しては消える。二面性という言葉は、どちらか一つを選ぶことを前提に語られることが多い。『聖闘士星矢』のサガの二面性も、どちらの側が好きかでファンの間で意見が分かれた。しかし、ジュンヤ ワタナベにはそれがない。アヴァンギャルドもクラシックも、どちらかを選べない。どちらにも魅了される。
選択を許さない才能。それが渡辺淳弥という天才だ。
〈了〉
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→ AFFECTUS No.363(2022. 9. 14公開)