AFFECTUS No.687
デザイナーを読む #5
シンプルな服は、違いを生み出しにくい。それは事実だが、「シンプル」と形容されるブランドを並列して見てみると、やはり各々違いが現れていることに気づく。シンプルな服を差別化する要因はなんだろうか。それは「選択」だと感じる。シルエット、素材、色。どれを採用するか。何を作るかよりも、何を選ぶか。それが簡素な服に個性をもたらす。
▶︎エヴァン・キノリは、ゆっくりと作る
ノスタルジーが導く、シンプルな服のもう一つの基準。
→ AFFECTUS No.676(2025. 11. 26公開)
そして、「何を選ぶか」には基準がいる。「ウィリアム フレデリック(William Frederick)」のデザイナー、ウィリアム・マクニコル(William McNicol)は祖父の記憶を基準に素材を選び、服を作り、ノスタルジックな服を発表する。
2018年、アメリカ・オハイオ州クリーブランドを拠点にウィリアム フレデリックは設立された。ブランド名は、マクニコルの祖父の名から取られている。祖父のワードローブは「常に整ったドレスパンツ、標準的なシャツ、限られた色数」だったという。センタープレスの効いたパンツ、基本の型に忠実なシャツ、ホワイト・クリーム・ネイビー・ブラックという落ち着いた色。マクニコルの祖父は、ファッションというよりも服を着る人物だった。
祖父のスタイルは、マクニコルの服作りとブランドのスタイルに大きな影響を与えた。
ウィリアム フレデリックは素材を日本、アイルランド、ベルギー、イタリア産に加え、ニューヨーク市、ロサンゼルス、イタリア・ボローニャにある三代続く家族経営の生地会社から調達したデッドストック生地も使用している。コレクションはクリーブランドで生産され、工場はブランドのスタジオ兼ショールームの隣に位置する。マクニコルは、工場との距離が近い生産体制を選んだ。
ブランドのスタイルはシンプル。「ミニマル」という言葉から浮かぶイメージには冷たさが浮かぶが、ウィリアム フレデリックのスタイルには落ち着きがある。装飾性は皆無。シルエットはゆったりとして、素材感も素朴で、色展開もベーシック。質素な佇まいは労働着に近しく、コレクションにはユニフォームのような統一感が漂う。しかし、だからといって、均一的でもない。
ウールとカシミヤを用いたジャケットは、肩先が落ちるドロップショルダーで、袖は袖口がやや広がるフレア状の形。全体のシルエットは丸みが帯びて柔らかいが、着丈が短いために、ほんの少しフェミニン。ヘリンボーンの一着がどこか愛らしい。
パンツはワイドシルエットが多いが、丈をやはり少し短めにするのがウィリアム フレデリックの装い。ワイドシルエットはただ幅広いわけではない。標準的なワイドな形とは、しっかりと「違い」を作っている。ただし、大胆ではなく、ささやかに。腰回りから膝にかけて膨らみ、膝から裾に向かって緩やかにテーパードする。わずかなラインのコントロールが、パンツに可愛さと素朴さが共存する個性を生む。
ウィリアム フレデリックに自己主張は見られない。
▶︎個性は消すことで現れる──エルメスとSANAAの共鳴
足すのではなく、消す。その選択の先に現れる輪郭。
→ AFFECTUS No.616(2025. 4. 13公開)
自分を表現しようとする欲も見られない。時間が経てば、埋もれてしまう服なのかもしれない。マクニコルは流行に乗らないことを意図して製作している。ただし、ほんの少しだけ、シルエットやディテール、素材の選択に自分の個性を滲ませる。
主張しない服を作ることは、逆の意味でリスクだ。差別化が難しく、その差異は小さい範囲にとどめなくてはならない。微細な変化を消費者に選んでもらう。ウィリアム フレデリックは、シンプルな服作りを選ぶことで、挑戦を選んでいる。
〈了〉。
▶︎トレンドを本当に無視することはできるか?
逃れられない“時代の流れ”を、どう遊ぶか。
→ AFFECTUS No.611(2025. 3. 26公開)