1980年代が初めて身近に感じられた-ソウシオオツキ 2026AW

AFFECTUS No.692
コレクションを読む #23

私がファッションに興味を本格的に持った1990年代後半、ファッションのシルエットはスリムが主流だった。人気ブランドは「ヘルムート ラング(Helmut Lang)」であり、私を含めた当時の若者たちは「ラフ シモンズ(Raf Simons)」に心を奪われる者が多かった。ラフ・シモンズのライバルだったエディ・スリマン(Hedi Slimane)が「クリスチャン ディオール(Christian Dior)」に移籍し、同メゾン初の本格メンズライン「ディオール オム(Dior Homme)」が始動させると、シルエットはさらに細くなり、スキニーが世界中を熱狂で覆った

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1990年代から2010年代半ばまで、ファッションは細いシルエット、装飾性よりもシンプルさが人気だったように思う。ノームコアの登場は、まさに当時のファッション観を物語る一例である。ファッションは、過去を参照にして新しい服を生み出す特徴がある。1970年代や1960年代が参照されることはあっても、ミニマルな感性が中心の時代で、避けられていると感じた時代があった。それが、1980年代だ。

無理も無い。コンパクトな肩幅、ボディラインに沿う細身の形、装飾性を控えた服が好まれた時代に、ビッグショルダー、オーバーサイズ、ギラギラした装飾が象徴だった1980年代を参照しても、誰も着たいと思わなかっただろう。2000年前後の私自身、1980年代のファッションを見た際、「これは今の時代に着るのは厳しい……」と何度も実感した。

しかし、価値観は「ヴェトモン(Vetements)」の登場で変わった。ビッグシルエットは時代の中心になっった。人々は、肩先がドロップする服を当たり前のファッションとして受け入れるようになった。そうすると、次第に1980年代のニュアンスが感じられる服が登場するようになり、1980年代のファッションに対する抵抗感は薄れていった。

この現象は、ヘルムート ラングをきっかけにファッションを好きになり、スリマンとディオール オムの熱狂をリアルタイムで体験した私にとって、なかなかの衝撃だった。20年近くに渡って抱いていた1980年代ファッションへの違和感が、いつの間にか消えていたのだから。

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2026AWシーズン、「ソウシオオツキ」は最新コレクションをフィレンツェで発表した。ショーに現れたルックは、私が子供のころに見た「昭和のスーツ」が呼び起こされた。その時、初めて1980年代が身近に感じられた。

ヴェトモンの登場をきっかけに1980年代は確かに受け入れられていったが、私個人はまだどこか「よそ者」という感覚が残っていた。しかし、ソウシオオツキの2026AWコレクションを見た時、その「よそ者感」が消えた。私にとって本物の1980年代は、当時のスターや映画、トレンドのファッションではなく、会社員が着ていたスーツにあった。ソウシオオツキは、アルマーニから着想を得ているが、ランウェイを歩くモデルのスーツを見ていると、私の中では日本の大人たちが着ていたあの頃のスーツが重なってしまう。

あの時見た1980年代の、昭和のスーツこそが、私にとっての1980年代だった。あの時代の一着が見れたことで、ようやくファッションで1980年代が初めて本格的に迎え入れられたような感覚を覚えた。

懐かしくも新しい服を、ソウシオオツキは見せてくれた。

〈了〉

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