AFFECTUS No.704
ムーブメントを読む #12
最近のファッションはよく似た方法で作られている。セレクトショップのラック、コレクションのルックを見ていると、ある共通点に気づく。シャツ、デニム、テーラードジャケット、ミリタリー、ワークウェア。こうしたベーシックな服をベースにして、そこにブランドらしい解釈を加える。シルエットや素材、ディテールを調整し、そのブランドの個性を作る。
▶︎ 関連コラム
イー・トウツは最高の普通を作る
→ AFFECTUS No.192(2020.03.10)
たとえば「アワーレガシー( Our Legacy)」、「オーラリー(Auralee)」、「ルメール(Lemaire)」、「スタジオ ニコルソン(Studio Nicholson)」 など、多くのブランドがこの構造で成立している。
ベーシックな服に、ブランドの解釈を加える。この方法は、2010年代以降のファッションを支えてきた重要なデザイン手法だ。しかし、最近はこの方法がかなり増えた。
解釈によるデザインは再現性が高い。既存の服をベースにして、シルエットや素材で個性を出す。この構造は取り入れやすい。その結果、同じ構造のブランドが大量に生まれた。微妙に違うワイドパンツ、微妙に違うシャツ、微妙に違うコートが並ぶ。それぞれ違うブランドの服なのに、体験としてはどこか似ている。
ブランドの個性は存在している。けれど、その差はニュアンスの違いになっている。
▶︎ 関連コラム
サンフラワーが披露する魅力的な普通
→ AFFECTUS No.403(2023.02.12)
さらに言えば、このデザイン方法は新しい服を発明しているわけではない。既存の服に解釈を加え、編集し、調整している。
つまり、これは編集のデザインだ。
ファッションの歴史を振り返ると、かつては違うタイプのデザインが存在していた。たとえば「コム デ ギャルソン( Comme des Garçons)、「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」、「ヘルムート ラング(Helmut Lang)」 などのデザイナーは、服のシルエットを調整していたわけではない。服の構造や意味そのものを変えようとしていた。つまりそれらのデザインは、編集ではなく発明だった。
では、なぜ今のファッションは「解釈のデザイン」ばかりなのだろうか。
一つの可能性として考えられるのが、ベーシックの巨大化だ。現在、ベーシックな服はかつてないほど強い存在になっている。その中心にあるのが、「ユニクロ(Uniqlo)」 である。
ユニクロはもはや日本のブランドではない。売上の大半は海外市場が占め、世界中の都市で同じベーシックウェアを提供している。Tシャツ、シャツ、デニム、ダウン、フリース。こうした服は、今や多くの人にとって特別なものではなく、日常のインフラのような存在になった。
服がインフラになると、何が起きるのか。
ベーシックは、もはやファッションの一部ではなくなる。生活の基準になる。その基準から大きく離れた服を避けるようになる。完全に新しい服よりも、見慣れた服を少しだけ違う形で着る方が安心できる。その結果、ファッションは「発明」よりも「解釈」を選ぶようになった。
また、2010年代に入るとストリートウェアという「リアルな服」が世界中で大ヒットとなった。フーディやMA-1といったストリートの中心アイテムを、シルエットの調整やグラフィックのプリントで、デザイナーたちはベーシックを解釈した。つまり現在のファッションは、ユニクロやストリートウェアが作ったベーシックの巨大な土台の上で、その解釈を競っているとも言える。
クリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)、クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)、コレクションシーンの最前線にいるデザイナーを招聘、ついには「ジーユー(Gu)」にフランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)を起用する。ユニクロから始まったファーストリテイリングによるベーシックの巨大化は止まらない。
ベーシックは「発明」を吸収し始めている。
〈了〉
▶︎ 関連コラム
ユニクロの実験装置としての役割を果たすUniqlo U
→ AFFECTUS No.165(2019.08.27)