「アンセルム(Ancellm)」がショー会場に選んだのは横浜だった。初のショーを開催した先シーズンは、新宿住友ビル三角広場という広大なスペースだったが、今回の会場となったBankPark YOKOHAMAは前回よりも遥かに小さい。しかし、旧第一銀行横浜支店を複合施設とした建物内は、教会内を訪れたような神聖さが漂う。その空気は、新宿の高層ビルでは感じられなかったものだ。
2月下旬に展示会を訪れた際に見た服が、ランウェイで人間が着用すると、どう見えるのだろうか。そこに注目していると、色彩、素材感、シルエットに「均衡」が感じられ始め、「ワンピース」という単語が浮かんできた。
なぜそう見えたのだろうか。
アンセルムの特徴は服地に施された加工にある。シャツやジーンズの表面にダメージが加えられ、裾が断ち切りでほつれている。通常、そのような服を見たなら退廃的な印象を覚えるのだが、アンセルムからは一度も感じたことがない。経年変化が加えられているはずなのに、いつも「綺麗」だと感じる。
アンセルムの加工は古くするためのものではなく、“全ての服を同じ時間に揃える”ためのものに感じられ、新品/古着という時間の差を消している感覚に近い。
ジーンズを穿いたモデルが目の前を通り過ぎた時、コットン製のデニムパンツがウールかと思うほど、布の揺らぎを感じた。生地は色褪せている。だけど覚える感覚はまたも「綺麗」。これは素材のアイデンティティが曖昧になっているかのようだ。
加工によって服の時間が均され、素材の差異が薄くなる。その結果、アウター、シャツ、ニット、ジーンズ、それぞれ分離したアイテムにも関わらず、モデルたちの佇まいからは一続きになった服、女性の服の代表アイテムであるワンピースと重なった。
アンセルムにとって加工とは、服を退廃させるものではない。服が持つ時間を等しく揃え、異なる要素の差を均していくもののように思えてくる。服の境界とは、アイテムの区分が異なること。その答えは、アンセルムを前にしては成り立たない。
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ショーのフィナーレ映像 → Instagram
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