スコット・スタンバーグよ、もう一度

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AFFECTUS No.30

もう新しいコレクションを見られなくなってしまい、悲しいブランドがある。そのような状況に陥る要因は、多くの場合、ビジネスに大きな問題を抱えた時だ。売れるか売れないかの世界はとてもシビアだが、それでも、願わくば、もう一度新しいデザインを見たいと願うデザイナーがいる。

僕にとってその一人が、「バンド オブ アウトサイダーズ(Band Of Outsiders)」を立ち上げたスコット・スタンバーグ(Scott Sternberg)になる。本日は、今ではメディアで取り上げられることがほぼなくなったスタンバーグについて、自由気ままに書きたくなった。

一時期、僕はバンド オブ アウトサイダーズを熱心に見ていた。インターネットでスタンバーグのインタビューを探しては見つけ、貪るように何度も繰り返し読み、セレクトショップに行ってはバンド オブ アウトサイダーズのデザインの秘密を探るように、パターンと素材を喰いるように何度も見ていた。今も所有するバンド オブ アウトサイダーズのポロシャツは僕にとって大切な一品である。

スタンバーグのデザインは、伝統的なアメリカントラッドスタイルを自身の感性で、クールかつシャープなスタイルに変換させている点に特徴がある。ブランドのアイコンアイテムであるボタンダウンシャツを着てみると、それがよく実感できる。僕はバンド オブ アウトサイダーズのボタンダウンシャツを初めて着た時、非常にスリムなシルエットがもたらす身体へのフィット感に驚いた。

シャツの後ろ身頃には、ヘムラインから肩甲骨に向かってダーツが伸びており、左右両身頃に1本ずつあるダーツが、ボディのシルエットをきつく絞る。シャツのレングスも短く、裾を外に出して着るスタイルがブランドから推奨されているかのようだった。

スタンバーグがデザインしたボタンダウンシャツは、決して心地いい着心地があったとは言えない。スタンバーグの服に対する美学が、一方的に押し付けられているのかのようなボタンダウンシャツだ。その感覚はボタンダウンシャツに限らず、スタンバーグがデザインするすべての服に当てはまる。

「これが一番カッコいいんだよ。着てみなよ」

スタンバーグからのそんなメッセージを潜むような服が、バンド オブ アウトサイダーズだった。

伝統的なアメリカントラッドに即しながらも、自分の美学を反映したスタイルを提案する。服は決してリアリティは失わない。しかし、保持されたリアリティの中に、着る人間に労苦を強いる強引さも明らかにある。服の外観はまったく異なるが、その着用感覚はまるで「コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)」のようだ。今、書いていて気づいたのだが、静かな興奮があったから僕はスタンバーグの服に魅せられたのかもしれない。アメリカの伝統は現代で新しいステージに上っていたのだ。

バンド オブ アウトサイダーズの面白さは服だけではなく、毎シーズン発表されるビジュアルにも反映されていた。スタンバーグは、アメリカントラッド伝統のユーモアを決して忘れない。これまでバンド オブ アウトサイダーズが発表してきたビジュアルの中で、最も好きな写真が次に述べるものだった。

どこかのカフェだろうか、丸いテーブルを挟んで二つの椅子が配置されている。一方の椅子には女性がティーカップを持って楽しげに笑っている。向かい合ったもう一方の椅子に座っていたのは、ゾウのぬいぐるみだった。ぬいぐるみを前に、楽しそうに明るく笑う女性という風景のあたたかさが僕はとても好きで、バンド オブ アウトサイダーズのビジュアルで最も好きなビジュアルだった。

バンド オブ アウトサイダーズのビジュアルは、モデルの女性たちの笑顔も素敵だった。純粋にかわいいのだ。そう思えてしまうほどに、彼女たちの笑顔は魅力的だった。女性の笑顔をかわいく見せることに関して、スタンバーグが僕の中ではNo. 1デザイナーだ。その思いは今でも変わらない。なぜモデルたちは、あんなに魅力的な笑顔を見せていたのだろう。彼女たちに仕事を忘れさせて、遊び心を思い出させているような、まるで子供が見せるような、本当に素敵な笑顔だった。

淡く儚げで、色褪せた色調の写真に流れるノスタルジックな空気と共にスタンバーグが見せてくれたモデルたちの笑顔は、僕を心地いい気分にしてくれた。もし、その写真に出会えなかったとしても、僕の毎日に何の影響もなかっただろう。しかし、見られたことで感じたあの時の心地よい気分が、時折今でも僕を楽しさで満たしてくれる。

いい服を作っていたし、いいビジュアルも作っていた。しかし、それでも ビジネスが失敗するファッション界。いや、ファッション界に限った話ではない。それはわかっている。でも、それでも、その切なさを最も強く感じさせる業界は、節操がないほどに新しさを追い求めるファッション界に思えてならない。

もし、スタンバーグがもう一度ファッションデザインをやるなら、ショーなど開催せず、ただただ自分の美学を反映したアメリカントラッドウェアを作り、ビジュアルだけで発表して欲しい。そして、彼の服を好きな世界中の人たちに届けて欲しい。カッコよく着ることができ、ユーモアを滲ませ、笑えて毎日を過ごせる服を。

〈了〉

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