ヴァージル・アブローとセカンドマーケット

AFFECTUS No.119

ヴァージル・アヴローがルイ・ヴィトンのアーティスティック・ディレクターに就任し、1stコレクションとなった2019SSコレクションはビジネス的に順調なスタートを切った。日本国内で2019年1月10日から原宿でオープンしたルイ・ヴィトンのポップアップショップでは、ヴァージルの1stコレクションが先行販売されている。

ショップオープン前には約1100人もの人々が早朝から並び、その売上も好調だったようだ。

「マイケル・バーク(Michael Burke)『ルイ・ヴィトン』会長兼CEOによると、17年に『シュプリーム(SUPREME)』とのコラボアイテムを発売して記録的な数字を樹立したポップアップと比較すると、最初の48時間の売り上げは30%増だったという」WWD JAPANより

今回のテーマは、ヴァージル2シーズン目となるルイ・ヴィトン2019AWメンズコレクションである。今回はこのコレクションを、デザインとビジネスの両面から考察していきたい。

まずデザインについてなのだが、僕の初見の印象は「難しいな……」というものであった。その理由は今回のコレクションで目立った、彫刻的造形の立体物をディーテルに持ち込んだアイテムにある。

正直、日常的に着られるデザインのアイテムではないし、「着たい」と思わせる外観の美的魅力を秘めているとは思えなかった。もちろん、これはショーだ。ゆえに見せることに特化したアイテムがあっていい。

しかし、ヴァージルのデザインは基本的にリアリティあるスタイルがベースにあり、そのデザインの中に非現実度がとても強い彫刻的立体物のディテールが入ったアイテムは、唐突感が否めなかった。これが、例えばアヴァンギャルドが代名詞のコム・デ・ギャルソンや、アメリカントラッド×アヴァンギャルドというリアルとファンタジーの融合を図ってきたトム・ブラウンなら、唐突感は感じなかったであろう。

リアルなアイテムとファンタジーなアイテム、その二つのデザインの距離感が遠く感じたのだ。だから、コレクション全体に違和感が先立ち、「難しい」という印象に至った。このコレクションのどこに価値を見出したらいいのかと、僕は戸惑ったのだ。

そこで僕は、ファッションデザインのコンテクスト(文脈)的に考えてみることにした。そう考えた時、一つの価値が見えてくる。それは平面から立体への移行である。現在のファッションは、Instagramの影響から大胆な柄やロゴを用いたプリントを中心に装飾性の高いデザインが、トレンド(人気)の中心を占めている。それらのデザインはグラフィックが中心であり、いわば平面的である。

そのコンテクストに対し、今後デザインの流れとして予想できるのは、平面的装飾性から立体的装飾性への移行である。人間の欲求は次第に、より難度が高いものへシフトする傾向がある。古くはモノクロテレビからカラーテレビ、現代でいえばSNSにおける言葉から写真、写真から動画へのニーズの高まりなどといったように(またそこからシンプルへシフトするのだが)。

その人間の欲求の「癖」を考えると、装飾性の高いデザインがグラフィックを中心とした平面から、より表現スキルの難度が高まる服のフォルムを中心とした造形面の立体へシフトすることは十分に考えられる。

そのように考えた時、ヴァージルが発表した先述の彫刻的立体物のディテールは、コンテクスト的に価値があると僕は感じられてきた。しかし、ここまで考えてようやく価値を見出せるとなるのは、やはり難しすぎる。

ヴァージルはどこまで意図しているかわからないが、彼は時代の流れを読んで理性的にデザインする傾向が強い。一言で言うと「頭が良い」のだ。聡明さを備えている人物と言える。だが、その特徴が過ぎることがあり、「狙い過ぎでは?」と思うこともある。それがヴァージルのシグネチャーブランド「オフホワイト(Off-White)」のウィメンズラインでは特に感じられる。

今回の2019AWコレクションにハードルの高さを感じ、ビジネス的にどうなるのだろうかと僕は思い始めた。しかし、僕が疑問を抱いた彫刻的立体物のディテールを取り込んだアイテムは、ルイ・ヴィトンのブランド価値をさらに高める可能性を秘めている。

セカンドマーケットの存在によって。

今、市場ではラフ・シモンズやヘルムート・ラングのアーカイブが高額のハイプライスで取引されている。例えば、ラフ・シモンズの2003AWシーズンに発表されたジョイディヴィジョンをモチーフにしたモッズコートは、300万円という価格が付いた例もある。

現在では、セカンドマーケットでの価値がブランド価値を高めるようになってきた。シュプリームがその好例だ。市場に供給される商品量が限られているため、自然とセカンドマーケットで取引が始まり、需要の高いアイテムは結果的に価格が高騰していく。その連続が、ロゴ入りのTシャツ1枚が50万円になるという直熱を生み出し、シュプリーム人気を高める要因となった。

日本国内でもメルカリ内での人気が、ブランドの価値を決める要因になり始めており、セカンドマーケットでの人気は重要な指標になってきた。

今、モードファッションのセカンドマーケットで人気を得るには、装飾性の高さがキーになる。一目でブランドの特徴が一瞬にして感じられる。そういったデザインだ。ラフ・シモンズで人気が加熱するアイテムは、一様に大胆なグラフィックが施されたアイテムばかりである。

ヴァージルがデザインした彫刻的立体物のディテールを取り込んだアイテムは、その装飾性の高さゆえヴァージルファンの中でコレクターズアイテムとして人気を獲得する可能性がある。セカンドマーケットで取引されるようになり驚くほどのハイプライスにまで高騰したとき、ルイ・ヴィトンのブランド価値はさらに押し上げられるだろう。

そしてその結果は、ヴァージルファンというさらなる新しい顧客の獲得がルイ・ヴィトンにもたされる。ルイ・ヴィトンがヴァージルを起用した狙いは、前任のメンズディレクター、キム・ジョーンズが開拓したストリート層の顧客化を一層進めるためだと思われる。

ヴァージルは自身のブランド「オフホワイト」でも、アイコニックなデザインを作るスキルに長けている。ルイ・ヴィトンでもそのスキルを発揮すれば、ブランドのビジネスを伸ばせるはず。ヴァージルのデザインには、モード史を更新するほどの先進性はあまりないが、市場を捉えて顧客の為のデザインをするという点においては、世界のトップデザイナーの一人と言えるだろう。

しかし、セカンドマーケットでの人気獲得に注力しすぎることは本末転倒であり、ブランドが最も重視するのは顧客が望むデザインの開発である。セカンドマーケットの存在は、あくまでブランド価値を高める一つの方策として捉える程度にとどめるべきだと私は考える。一方で、現在のシュプリーム人気を考えると、セカンドマーケットは軽視することのできない重要な存在であるのも事実である。

今、ラグジュアリーブランドがブランド価値を高めるには、これまでのファッションショーやハイクオリティなビジュアル、ファッション誌への広告(今はこの効果がどれほどなのだろう?)、SNSによるソーシャルマーケティングだけでなく、セカンドマーケットも視野に入れる必要がある。

最後に。

売れにくいのではと思ったヴァージルによる2019AWコレクションだが、ショー映像で観てみると、その印象が一変した。ショーのために設営されたセットが1980年代のマイケル・ジャクソンのミュージックビデオに出てくるような雰囲気であり、そのムードが現在の「ダサいことがカッコイイ」というコンテクストに一致していた。実際に、今回のコレクションはマイケル・ジャクソンが重要なテーマになっていることが、ルイ・ヴィトン公式サイトで説明されている。

YouTubeでマイケル・ジャクソンのミュージックビデオをいくつか観たところ、今回のショーは「Billie Jean(ビリー・ジーン)」がテーマになっていると感じた。Billie Jean的世界観の再現。それが今回のコレクションだった。

実際に服を着て歩くモデルの姿を見ると、黄金期のマイケル・ジャクソンのムードを、当時のデザインをそのまま再現するのではなく、トレンチコートやスーツ、ワイドパンツといったベーシックでクラシックなアイテムに、ゆったりとしたリラックシルエットと、上半身を誇張するマッチョなシルエットを混ぜながら表現しており、ライトグレーをベースカラーにした色使いもルイ・ヴィトンならではの上質感を演出していた。巧みなデザイン構成に感じられ、そしてその服を着たモデルたちの歩く姿に、僕は素直に「カッコよさ」を感じた。

全体を見れば、日常的に着られるウェアラブルなアイテムも多数あり、全体の構成もうまい。相変わらずシルエットには、美しいカッティングのキレは感じず野暮ったさはあるのだが、それが顧客となるストリートマインドを備えたヴァージルファンにはマッチすると思えた。最高級に美しいシルエットの服は、ストリートには合わない。野暮ったいシルエットを着こなす。そうしてスタイルを作り上げることが、ストリートスタイルの魅力だと僕は考える。

ヴァージル・アブローのディレクションが、ルイ・ヴィトンのビジネスをどこまで伸ばすのか。新世代のNew Typeと呼べるデザイナーの手腕に注目していきたい。

〈了〉

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