見たことのないデザインは、どうしたら生まれるのか

AFFECTUS No.151

デビュー時から高い評価を得ていることを知りながらも、個人的にそのデザインの価値を判別しずらかったデザイナーがいる。それがロンドンのスター、クレイグ・グリーン(Craig Green)である。ロンドン北西部出身のグリーンは、名門セントラル・セント・マーティンズでMA(修士)を取得し、卒業後の2012年、自らの名前を冠したシグネチャーブランドをスタートさせる。

グリーンはデビュー早々に話題を呼び、2014年にBritish Fashion AwardsでEmerging Menswear Designerを受賞したのを皮切りに、ドーバーストリートマーケットでは早期から取り扱われ、2018年6月にはピッティ・イマージネ・ウォモでゲストデザイナーに選出、同年モンクレールが世界中から選んだ8人のデザイナーを起用したコラボライン「モンクレール ジーニアス」に参加し、第3弾コレクション「5 モンクレール クレイグ・グリーン」をローンチするなど、数多くの栄誉を勝ち取ってきた。

世界的に高い評価のグリーンだが、彼のデザインを何度見ても僕はその魅力を捉えずらかった。知りたい。グリーンのデザインのどこに、どのような価値があるのか。僕はその欲求がさらに強くなる。先日発表されたばかりの2020SSコレクションを見たことによって。

そこで今回のLOGICAZINEは、グリーンのデザインを深く観察し、彼の特徴を捉えることにする。

まず僕はグリーンのInstagramアカウントにポストされているすべてを、過去にまで遡りチェックした。すると、そこでもう結論が出てしまった。グリーンのデザインがなぜ評価されているのか、もちろんこれは僕の視点ではあるが、その結論が見えてきたのだ。

「今までに見たことのないメンズウェアをデザインしている」

言葉にすると、なんともありふれた表現だが、グリーンのしてきたことはそのフレーズに凝縮されている。

だからこそ、彼のデザインは見る者の美意識を刺激し、ファッション界で高い評価を獲得してきたのではないだろうか。

僕がグリーンのメンズウェアの価値を捉えずらかった理由は、僕自身の「好き嫌い」という観点の個人的趣向から外れていた点と、これまでに見たことのない服だからゆえの、理解する難しさだったのではないかと今はそう考えている。

グリーンは今までに見たことのないメンズウェアをデザインしているのだ。

彼のデザインのベースはワークウェアにある。ファンタジーからもっとも遠く離れた労働のための服。ブルーカラーのユニフォームをベースに、グリーンは自らの創造性の限りをぶつけてくる。グリーンのコレクションには、現実的に着られる服がある一方で、必ず挑戦的で挑発的、大胆で過剰な表現のデザインが発表される。保守的なメンズウェアでは信じられないほどダイナミックなデザインを。

例えば先ごろ発表された2020SSコレクション。ショー終盤に登場するデザインに、僕は目が止まる。それは高揚感とは別の感情だった。

「いったい、これは何なのか……」

男性モデルの全身を、大きな切り絵が覆っている。一見するとツナギのように見える上下が一続きのアイテム。だが、ツナギの素材は切り絵によって模様が全体に描かれ、赤・青・緑・紫・オレンジといった色でそれぞれのルックが単一の色で染められている。オレンジの切り絵のツナギ、紫の切り絵のツナギといった具合に。

このデザインは、いったい何からインスパイアされたのか。

グリーンのInstagramには2020SSコレクションのルックに、こんなキャプションが添えられていた。

“Spring/Summer 20 – Lantern Men inspired by Mexican papel picado”

彼はMexican papel picadoから発想を得たようである。Mexican papel picadoとは何か。読み方は「メキシカン パペル ピカド」と言い、スペイン語で「穴を開けられた紙」という意味を持つ、メキシコのカラフルな切り絵のことである。

切り絵の模様は多様で、幾何学模様から花やガイコツなどがモチーフになっている。グリーンが発表したルックでは、壺・植物・太陽が古代文明の洞窟の壁画のような絵柄で切り絵として表現されていた。

グリーンはパペル ピカドからインスピレーションを得て、メンズウェアを作り上げた。しかもそれをワークウェアベースで。僕はこのようなメンズデザインを見たことがないし、おそらくモード史においてもないだろう。

今回のコレクションだけではない。グリーンは、いったいどこから発想したのかと思わせる、それまでのモード史に登場してきたメンズウェアには見たことのないデザインを発表する。しかもそのベースとなるのが、先述したようにこれ以上ないリアリティを備えたワークウェアなのである。

このようにワークウェアベースで、大胆なクリエイティビティ、しかも通常そこをメンズウェアのデザインソースとしないだろう領域からグリーンは発想し、組み合わせて作り上げたスタイルは、既視感とは程遠い感覚を見る者に感じさせ、僕のように驚きの高揚感よりも戸惑いに覆われることがある。

僕はグリーンのコレクションを見て思う。

モードにおいてもっとも重要なことは「見たことのない服をデザインすること」であることに。見たことのない服をデザインすることは、新しい価値観を作ることになる。だからこそ評価される。

だが、ここで一つの疑問が浮かぶ。どうしたら見たことのない服をデザインできるのか、という疑問だ。なぜ、グリーンはこのようなデザインができるのか。グリーンがどのような考えでデザインを行っているのか、彼のデザイン時における思考がわかれば、また新たにファッションデザインの理論化が可能ではないかという思いが頭をよぎり始めた。

そうなると、グリーンのインタビューを読むのが最適に思える。だが、必ずしもインタビューがデザイナーの意図を正確に反映しているとは限らないし、またデザイナー自身が自身のデザイン理論を言語化する術に長けているとは限らない。

一番良いのは、やはりデザインそのものを観察し、その特徴を捉え、抽象化すること。その考えから、改めてグリーンのコレクションを観察して、その特徴を言語化してみようと思う。その結果、以下の特徴が見えてきた。

1.ファッションとは程遠い領域からデザインソースを得る
*ただし、自分が本当に興味を抱いた領域であること

2.1から得た発想をダイナミックに展開した要素をデザインする
*今回のグリーンでいえば切り絵

3.2でデザインした要素をリアルスタイルにかぶせる
*グリーンは「ワークウェア×切り絵」

箇条書きにするとコンパクトになり、かなりあっさしたものになったが、グリーンのコレクションを見ていて僕が捉えた感覚を言語化し、方程式に落とすとこうなった。

今ままでに見たことのないデザイン=1×2×3

足し算ではなく掛け合わせていく感覚。だから、最終のアウトプットがとんでもなく遠いところへ行ける。

グリーンは2020SSだけでなく、過去のコレクションを見てもダイナミックなメンズルックを発表している。たとえば2018AWコレクション。いつものようにデイリーに着られるスタイルが冒頭から登場する。だが、6番目に突如いびつなルックが現れる。木片の長い棒を直角につなぎ合わせた枠を作り(見た目はあみだくじの様である)、枠の頂点からギャザーを寄せた布がぶら下がり、その枠の中央に昆虫のフォルムを思わせる丸みのある立体物が配置されたオブジェを、男性モデルが上半身の前面を覆うように着用し、モデルの顔は完璧に隠れてしまっている。ただし、そのスタイルのボトムは、ワイドシルエットでサイドにラインが入ったシンプルでリアルなパンツである。

また、この感覚が襲ってくる。

「いったい、なんなんだ、この服は……」

このルックの構成を見ても、先述の要素が反映されている。

1.ファッションとは程遠い領域からデザインソースを得る
2.1から得た発想をダイナミックに展開した要素をデザインする
3.2でデザインした要素をリアルスタイルにかぶせる

今ままでに見たことのないデザイン=1×2×3

グリーンはこの方程式をリアルなアイテムにも展開している。

2019SSで展開されているアイテムにTシャツがある。一見するとベーシックなフォルムのTシャツだが、クルーネック部分のディテールが不可思議だ。ネック部分に、アイレット(中央に穴の開いた金属の円形)で穴をいくつも開け、その穴を太めのヒモが通ったレースアップのディテールが作られている。アイレットを通ったヒモはネック中央付近でぶらさがり、まるでネクタイのよう。

グリーンは見たこともないデザインを作る方程式を、ベーシックアイテムには控えめなバージョンでデザインしている。こうして方程式の答えにさじ加減を加えたルックを配置し、グリーンはコレクションを作り上げている。

今までグリーンの価値が僕には捉えづらかったが、今回の観察によって彼の価値が見えてきた。今まで見たことのないメンズウェアをデザインしていたからこその、グリーンの評価だった。今の僕は、そう理解している。

特に世界で評価を得るとなると、見たことのない服をデザインするのは重要になってくる。コム デ ギャルソンが運営するドーバーストリートマーケットはロンドンのセントマM A出身の若手やLVMH PRIZEのファイナリストをよく取り扱っているが、どのブランドも既視感よりも新規性が前面に出ている。それが世界の評価軸なのだろう。

今までに見たことのないデザインは、どうしたら生まれるのか。グリーンのデザインを見ることで、一つの理論が見えてきた。これを実践することでどんな服が生まれるのか、僕は強い興味を抱いている。

〈了〉

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