ロクはどこまでもカッコよく

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AFFECTUS No.251

今回の2021AWシーズンを見ていて、改めて思う。僕はカッコいいウィメンズが好きなんだということに。華やかさやかわいさは女性が持つエレガンス。それはとても魅力的だ。しかし、僕がより強く惹かれるのはカッコよさを感じさせる女性像。女性に潜むカッコよさを引き出す服に、僕はどうしようもなく惹かれる。なんてカッコいいんだと。

女性のカッコよさを引き出すデザインとして最も有用なアプローチは、メンズウェアをベースにデザインすることだろう。メンズウェアが持つ直線的カッティングのシルエットを、女性の曲線的ボディラインに乗せることで、メンズウェアの硬く力強いシルエットが女性の身体の上で布が柔らかくドレープを描く姿は、優雅さとカッコよさが両立されている。

だが、僕が2021AWシーズンで最もカッコよさが迫ってきたウィメンズコレクションは、メンズウェアベースのデザインではなかった。ロク・ファン(Rok Hwang)の「ロク(Rokh)」は、メンズウェアのフォーマットに乗ることなく、あくまでウィメンズウェア上で女性をカッコよく見せる手法を選択し、見事にエレガンスを生み出した。

ウィメンズウェア上で女性をカッコよく見せる手法とは、どのようなものか。具体的に触れていきたい。

ロクの2021AWコレクションに登場するアイテムは、どれもウィメンズウェアの象徴的アイテムとカッティングが紛れ込んでいる。印象的なのはスカートとランジェリーを思わすカッティング。ストレート、フレア、マーメイドとスカートのシルエットは、服装史を彩ってきた女性の伝統的シルエットが作り込まれ、レングスもミニから膝下、ロングまでバリエーション豊富。だが、ロクが発表したスカートには、僕がこれまでスカートというウィメンズウェアのベーシックアイテムから感じてきた、華やかさや柔らかさ、かわいさは無縁だった。

そのように感じた理由は素材にある。たしかにアイテム自体はウィメンズウェアを代表するベーシックアイテムのスカートだが、表面に滑らかさ、素材感に張りと硬さが感じられた生地の多くは黒・ベージュ・グレーというベーシックカラーにチェック柄が色として用いられ、それらの質感と色を備えた素材から僕はイギリス紳士服という表現が浮かんできた。

アイテムはスカートだけれど、使用素材はまるでイギリスのスーツに使われるようなメンズ素材が使われている。素材は他にもレザーやデニムなど、メンズウェアでも頻繁に使われる素材が使われている。アイテムとシルエットはウィメンズウェアのフォーマットを踏襲しているが、使用素材をメンズテイストにすることで、ロクは女性の服にカッコよさをオーバーラップさせてきた。

もう一つ特徴的なデザイン要素がランジェリーライクなカッティングだ。モデルたちのバストを表現するカッティングはまさにランジェリーそのもので、それらのカッティングはドレスに用いられるだけでなく、コートにも混じり合って用いられてアグレッシブなデザインが成され、同時に色は黒を多用することでセクシーかつ強く鋭くカッコいい仕上げとなっている。

ルックと同時に発表されたショー映像も、クールなイメージを促進させる効果を発揮していた。天井高く、蛍光灯が点滅を繰り返すコンクリート空間は工業的で廃墟的ムードを滲ませ、無機質空間を黒やグレーのシャープな服を着用した女性モデルたちが次々に歩いていく。もしモードとはどんな服かと訊ねられたなら、この映像を見ればいい。そこには「モードとは何か?」に対する解答が、言葉の代わりに服が雄弁に語ってくれている。

コレクションを観察していくと、肌の露出は大胆なデザインもあるがコレクションという舞台を基準に考えれば一般的レベルにあると言えるだろう。しかし、セクシーが確かに存在する。女性のならではのシルエットにメンズテイストの素材と色が紛れ込むことで、女性の持つ色気が拡張されているのだ。

「カッコいい」という形容詞は、一般的には男性にも使われることが多い。しかしながら、「カッコよさ」は決して男性だけの美ではない。女性にもカッコよさがある。カッコいいとしか表現することのできない美がある。2021AWコレクションでロクが証明したのは、男性では到底到達することのできない領域に達した、女性だけにしか表現できないカッコよさだった。

僕はそのカッコよさに見事に魅了され、憧れを抱く。カッコよければファッションのすべてが解決する。どんなに高尚なメッセージや、アヴァンギャルドなアイデアが披露されたとしても、カッコいい服を目の前にすれば、魅力は減退していく。カッコよさは正義。ロクが明示したのはファッションの正義だ。

〈了〉

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