ジョン・アレキサンダー・スケルトンの方程式

AFFECTUS No.306

コレクションシーズン楽しみの一つが、未知のブランドに出会えることがあげられる。新シーズンの2022AWシーズン開幕早々、僕はさっそく興味惹かれるブランドに出会えた。新しい才能は、またもロンドンからの出現だ。その名は「ジョン・アレキサンダー・スケルトン(John Alexander Skelton)」と言う。

コレクションへ言及する前に、今回はこのブランドの制作コンセプトに触れることから始めよう。正直言えば、コンセプト自体に新規性を僕は感じなかった。では何がスケルトンの特徴となり、惹きつけられたのか。それはコンセプトの表現方法であり、そこに特異性が生まれていたのだ。

スケルトンは、ヨークシャーやスコットランドの工場と関係を築き、デッドストックの生地を使い、職人や農家、工場労働者の歴史を研究し、コレクションとして蘇らせ、低負荷で地元生産をサポートをしている。これがスケルトンの基本コンセプトになっている。

やはり、僕はこのコンセプトを改めて読んでも、特別な驚きはない。例えば、デットストックの生地を使う点で言えば、近年で言えばニョーヨークの「ボーディ(Bode)」もデッドストックの生地を使ってコレクションを製作しているし、もっと時代を遡れば、ある意味マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)も同様のタイプと言えなくもない。デットストックとは売れ残り商品を意味する。価値が消失していた素材を、デザインの力で新しい価値を作り出す。これはマルジェラ的なアプローチであり、フォロワーとなっているブランド、デザインも数多く見られる。

工場との関係強化についても、先述のボーディと同じくニューヨークを拠点にする「ピーター・ドゥ(Peter Do)」は、商品の生産をニューヨークで行い、ニューヨークの生産環境を活気づけたいという思いを抱いている。これまた同じくニューヨーク拠点のブランドだが、鈴木大器による「エンジニアド ガーメンツ(Engineered Garments)」も、ピーター・ドゥと同様にニューヨークの工場で生産を行い、「Made in New York」を誇りにしている。生産の低負荷と言う点でも、今ではサステナビリティを掲げ、多くのブランドが取り組んでいる点である。

このように、スケルトンはコンセプトそのものだけを見れば、とびっきりに独創的というわけではない。

だが、コンセプトの中でスケルトンの特異性を生み出す要因が一つある。それが以下になる。職人や農家、工場労働者の歴史を研究している点が、スケルトンのコレクションに大きな特徴を生んでいる。正確に言えば、労働者階級のファッションから発想を得るという点も、珍しいことではないのだが、労働者階級のファッションを表現する方法が独特だったのだ。

これまで労働者階級のファッションをテーマとしたデザインに多く見られたアプローチは、労働者階級のファッションを現代の視点とブランド(デザイナー)の視点で生まれ変わらせる方法だ。例えば、初期のキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)が見せていたワークウェアを軸にしたコレクションがそうだった。

しかし、スケルトンはこれまでのアプローチに一捻りを加える。加えられたのは二つのイメージだった。

一つは、研究した労働者階級のファッションが先述のキコ・コスタディノフのように現代のものではなく、19世紀か20世紀か、過去に遡った時代の古き労働者階級のファッションがデザインのイメージとして加えられている。そして二つめは、ホラー的イメージである。過去の遠い昔に亡くなり、墓地の下で眠っていた労働者階級の男性たちが深夜に蘇ったような、ホラーテイストのイメージが組み合わさっていた。

つまり、スケルトン=労働者階級のファッション×歴史×ホラーというデザインの方程式が成り立っていたのだ。ホラーは近年のモードシーンで、僕が個人的に気になっていた現象だった。スケルトンと同じくロンドン発の「アートスクール(Art School)」も、ホラーテイストを特徴に発表するブランドで、僕が毎シーズン確認するコレクションの一つになっている。

そして、ここで改めてスケルトンのコレクションを見ると、3つめの要素に気がつく。たしかにスケルトンのメンズウェアには、過去の時代に亡くなった労働者階級の男性たちが蘇ったホラーテイストがあるのだが、男性たちが着ているファッションはキコ・コスタディノフのようにワークウェアではなく、テーラードジャケットをはじめとしたクラシックなウェアなのだ。

改めて述べるとこういう表現になる。

「19世紀か20世紀か、過去の時代に生きた労働者階級の男性たちが蘇り、彼らのための一張羅をスケルトンが仕立てた」。

この表現の変更に伴い、先ほどの方程式も以下のように訂正したい。

スケルトン=労働者階級のファッション×歴史×ホラー×一丁羅

一丁羅は、所有している服の中で最も良い服、晴れの日に着る服を意味する。普段はワークウェアを着る男性たちが、所有しているクラシックなジャケットやパンツ、コートを着て、墓地の下から蘇りって現代の夜を歩く。新たな命を得たことを祝福するように、彼らは自分たちにとって最高の服を着る。それがスケルトンのコレクションから僕が受けたイメージであり、そのイメージの重層性がコレクションに独創性を立ち上げていた。

スケルトンのアプローチは非常に面白い。面白いというよりも、勉強になると言った方が正確か。何度も述べている通り、スケルトンのコンセプトそのものは珍しいものではない。だが、そのコンセプトの表現方法、ここでは選択したイメージの種類と数の多さ、それらを組み合わせことに特徴が生まれ、スケルトンはコレクションに独創性を確立するに至った。

表現方法を新しくすることが新しい価値を作る。コンセプトはブランドの出発点になるので、独創性があることは重要で、僕もそう感じている。だが、コンセプトそのものの面白さばかりに気を取られてはいけないことを、僕は学ぶ。表現方法に面白さがあれば、独自性は叶う。新しい才能を見出し続けるロンドンは、またも新しい才能を輩出した。その名を、ジョン・アレキサンダー・スケルトンと言う。

〈了〉

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です