カラーは変わらずに変わる

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AFFECTUS No.438

6月から各都市で発表された2024SSメンズコレクションがひと段落した。今回は春夏らしい、軽やかなファッションが多かった印象だ。「春夏らしい軽さ」そのものは、特別珍しいものではない。コレクションテーマにすらならない、春夏ファッションの普遍要素になる。しかし、スタンダードに思えた要素であっても、「どう表現したのか?」に着目すると、ファッションデザインの面白さが立ち上がるから不思議だ。

パリで最新コレクションを発表した「カラー(Kolor)」は、あいかわずのハイクオリティを見せる。ただし、これまでとは違う新しさが感じられた。いったいそれは何か。2024SSメンズコレクションをピックアップし、新たなアプローチを見せたカラーのデザインの構造について見ていきたい。

今コレクションを取り上げる前に、カラーが得意とするスキルについて述べていこう。カラーの特徴はレイヤードデザインにある。シャツ、カーディガン、ジャケットなど、様々なアイテムの断片が重なり合い、複数の服を重ね着したように一つになったレイヤードデザインこそ、カラー最大の魅力。

スタイルそのものはトラッド、スポーツ、クラシックといった伝統的なファッションに基づくが、パターンの構造が複雑であるために、前衛的な伝統という矛盾のデザインが完成している。色使いは、レッドやグリーンなどのビビッドな味付けも入るが、基盤はブラウン・ベージュ・グレーなどの落ち着いた色。素材も、メンズスーツに使用するチェック柄生地、デニムなどベーシックなタイプが多いため、必然的にコレクション全体が渋く映る。

「服の構造は挑戦的だが、色・素材・スタイルはトラディショナル」

簡潔に述べれば、それがカラーの特徴だと言っていい。

このカラーの特徴を踏まえた上で、最新2024SSコレクションについて述べたい。

まず、すべてのルックを見終えて真っ先に感じたのは、「いつものコレクションより軽さを感じる」ということだった。合繊素材を使用したアイテム、アウトドアテイストのスタイル、量感のあるシルエットが、コレクションに軽さを感じさせた要因だが、最も効果を発揮していたのは服の作りだ。

先述したように、カラー最大の特徴はレイヤードデザインだが、2024SSコレクションではレイヤードデザインの減少が見られた。

「春夏なのだから、レイヤードが減っても当然では?」

最も指摘だ。まったくもってその通り。しかし、2022SSコレクション、2023SSコレクションと、1年前と2年前のデザインを見返したところ、やはり2024SSコレクションはレイヤードデザインが減少し、以前よりも重さが軽減されている。

カラーは軽さを出すために、まずはレイヤードデザインの数を減らすというシンプルな手法に着手。だが、それでは服の構造が挑戦的という、ブランドらしさが失われてしまう。そこで、今回は別のアプローチを試みて挑戦的な構造を完成させていた。

それが、切り替えとパッチワークの多用である。

スポーティなブルゾンやワークウェア要素強いツナギは、過去のコレクションのようにTシャツやシャツなど、他のアイテムと混じり合う作りにはなっておらず、純粋に1着の服として制作されていた。しかし、身頃のパターンは、複数色の素材で切り替えて作られ、シンプルとは程遠い表情で、切り替え線は、直線的なパターンだけではなく、曲線的に切り替えたデザインも登場して、構造の複雑さを一段深めていた。

また、パッチワーク使いも目立つ。服の表層に、様々な色の生地で長方形状にパッチワークしたタイプもあれば、「アディダス(Adidas)」のスリーストライプスのように、直線のライン使いでパッチワークしていくタイプも確認できた。

このように2024SSコレクションンのカラーは、レイヤードデザインの代わりに、素材の切り替えとパッチワークで服の構造を挑戦的にしていた。コンセプトは変えずに、コンセプトを表現するアプローチを変えた。そう表現するのが、適切なデザインだと言えよう。

ファッションブランドに個性は必須だ。シルエット、素材、色使い、スタイル、一目見てブランドの名前をすぐに思い浮かべてもらえる、わかりやすい個性が欠かせない。だが、最初は支持された個性であっても、何シーズン、何年も継続していくと変化が乏しいデザインになってしまい、次第に顧客が飽きて離れていく。それはキャリアを重ねてきたブランドに生じる共通の課題だろう。そこで変化が必要になる。だが、ブランドの個性は変化させないままで。この難題をクリアすることで、ブランドは次のステージにのぼっていく。

カラーは「構造は挑戦的」というDNAはそのままに、服の作り方を変えることで新しさを加えることに成功した。カラーが世界的人気ブランドであり続ける理由を、垣間見た思いだ。「何を表現しているか?」だけでなく、「どう表現しているか?」に焦点を当てることも、ファッションを読む面白さの発見につながる。

〈了〉

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