静かな声で主張するウィリアム ファン

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AFFECTUS No.503

冷静な熱と言うべきコレクションを発表する「ウィリアム ファン (William Fan)」。2015年に設立されたベルリンブランドは、煌びやかなファッションとは距離を置く。では、シンプルでクリーンな服を展開しているのかと言うと、それは微妙に異なる。

アイテムの形自体はシンプルだ。ベルリン ファッションウィークで発表された2024AWコレクションでは、ジャケットやパンツなど見慣れたアイテムが、オーバーサイズシルエットで作られていたが、コートは着物に近しい袖幅と着丈、パンツは袴を思わせるボリュームで形作られ、オリエンタルな要素が所々に入り込んでいる。

使われていた素材もアジアの衣服に通じる。シボやシワ、あるいは生地の織りによって作られた凹凸、楊柳的な表情の素材が、ワークジャケットやステンカラーコート、シャツワンピースに縫われていく。服の形は西洋の衣服をベースに、量感と素材に東洋の感覚を織り交ぜる。その結果完成したコレクションは、奇妙な雰囲気を醸す。この世界のどこかに実在しているようで実在していない街、そこに住む人々が着る衣服のように。

スタイルも特定することが難しい。ストリートの要素が強いと思ったら、クラシックに感じられたり、トラッドやワークの残像が見えたりと、いくつかのファッションの要素が少しずつ混ざり合っている感覚だ。

ブランドサイトのデザインは、中国の青磁器の色をもっと薄めたようなグリーンと言えばいいだろうか、物静かなトーンのカラーが象徴的に使われている。「ARCHIVE」をクリックすると、ポートレートのように過去のコレクションを写した写真が整然と並んでいた。

通常のブランドサイトなら、シーズン別に表記してアーカイブを見せるだろう。だが、ウィリアム ファンのサイトではコレクションの発表時期が不明だ。いつのシーズンに発表された服なのか、いつのコレクションで登場したモデルたちなのか、シーズン表記がないためにまったく見当がつかない。ではウィリアム ファンのアーカイブは見ていて居心地が悪いかと言うと、そうでもない。発表年代がわからないことに不便さはあるのは確かだが、一冊のアルバムを見ている感傷に浸れ、ウィリアム ファンという人物の記憶を辿るような感覚で悪くないのだ。

デザイナーのウィリアム・ファンは、自身のブランド設立以前、「アレキサンダー マックイーン(Alexander McQueen)」で経験を積んでいた。アレキサンダー マックイーンは歴史を横断したドラマティックなコレクションを完成させ、世界を驚かせてきた。一方、ウィリアム ファンのコレクションは文化を横断し、ささやかなに混ぜ合わせる。デザイナーが経験を積んだブランドの影響は、独立後にも感じられることが多いが、ウィリアム ファンにはいい意味で、アレキサンダー マックイーンの影が薄い。

ウィリアム ファンは、ブランドサイトで中国とヨーロッパ双方の影響を取り入れて、コレクションを制作している旨を述べている。オリジナリティを生み出すのは、その人がそれまでに体験してきたものの中に潜むことが多い。好きとも嫌いとも思ってもいない、これまで自分が体験してきたもの。しかし、当たり前に思っていた記憶の中に創造の種が眠っている。あなたと同じ道を寸分違わず歩いてきた人間は、世界には一人もいない。

自分の歩いてきた道を冷静に振り返った時、そこには何が見えるのだろう。他の人にはない自分だけの個性を、外に求めるのではなく、自分の中の奥底から掘り当てる。ウィリアム ファンは、そのことを静かに主張する。さあ、アルバムを開く時間だ。

〈了〉

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