ルイ ヴィトンで繰り広げられたジェスキエール ワールド

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AFFECTUS No.509

3月5日、ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)が指揮する「ルイ ヴィトン(Louis Vuitton)」2024AWウィメンズコレクションが発表される。会場はパリはルーブル美術館のクール・カレ。ナポレオン1世(1769年-1821年)時代に完成した荘厳な場所に鳴り響く、重々しいダークサウンド。妖しさ漂う空間に現れたファーストルックは、純白のスポーティルックだった。

ファスナー使いが目立つスタンドカラーのホワイトブルゾンは、ウェストにギャザーを寄せて身頃に布のたわみを繊細に作り出し、ヘムラインはクリノリン製ミニスカートのように膨らみ波打つ。服に用いられたテクニックから考えれば、白いショートブーツを履いたモデルの姿に、本来なら伝統的エレガンスが感じられてもおかしくないが、どこまでも軽快でクール。

パリを拠点にするコンポーザー・ミュージシャン、フラヴィアン・ベルジェ(Flavien Berger)の”Etudes sur voix mmxxii”は、重厚な音を時々途切れされながら妖しさを醸し、ショー空間をミステリアスに覆い尽くす。

煌びやかなメタルの円形パーツをふんだんに取り付けた、肌を透かすノースリーブロングドレスの下には、これからアクティブな運動に臨みそうなライトグレーのビキニとレギンスがレイヤードされていた。ジェスキエールは、ドレッシーとスポーティを上質な美しさで繋ぎ合わせていく。

素材は次第にメタリカルな印象を帯びていき、フォルムはオートクチュールを彷彿させるドラマティックなものへと変化する。だが、そこはジェスキエール。決して重厚な形には仕上げない。ドレスはミニレングスで仕上げ、近未来スポーツスタイル x クチュールというスタイルを完成させるのだった。

ヘンリーネックのカットソーは薄手で柔らかい。カジュアルウェアの王道トップスの上に重ね着されているのは、これまたメタルパーツを大量に用いたクチュールライクのロングドレス。

ジェスキエールはメゾン伝統のモノグラムも軽快に料理していく。モデルが着用するのは、まさにクリノリンのミニドレス。着丈は大腿部を露わにするスーパーミニで、トップス部分はノースリーブだ。ネックはスタンドカラーで、ジェスキエール得意のスポーツルックに仕上がっている。だが、素材はメゾンの象徴であるモノグラム。鈍い金色の金具もプリントされたモノグラムマテリアルは、ルイ ヴィトンのバッグを衣服に仕立てかのようなクラフトワーク的迫力が迫ってきた。

翻ってテーラードジャケットは、人工的ムードを発散している。通常のセットインスリーブではなく、ラグランスリーブで形成され、肩先にパッドを入れてショルダーラインを硬く丸みを帯びた形を作っている。そのフォルムは、人工的に作られた肉体のようでサイボーグ感さえある。

ルックにSFの世界観が強くなってきたと思うと、気がつけばBGMも、エレクトロニックサウンドの名手として知られるミルウェイズ(Mirwais)のファーストシングル”Disco Science” に切り替わっており、ランウェイに電子音が鳴り響く。ショー会場の天井には超巨大なミラーボール的球形が惑星と言っていい圧巻の迫力で吊り下げられ、ランウェイがダンスフロアかと思えるほどだ。

ルーブル美術館のクール・カレ、巨大な惑星的オブジェ、オートクチュールを連想させる職人的テクニック、軽快なスポーツルック。ジェスキエールは、服だけでなく、会場も音楽もすべてを一つにする。

「バレンシアガ(Balenciaga)」時代から、ジェスキエールのミックス感覚は痺れるほどの冴えを見せていた。ジェスキエールのデザインは見る者を驚かし、惹きつける圧巻の魅力があるのだが、服の形そのものがアヴァンギャルドというわけではない。

服装史の教科書で見たことのあるシルエットやディテールが、ジェスキエールのコレクションには散見される。歴史の遺物を、ジェスキエールはあらゆる時代から手繰り寄せ、それらを混ぜ合わせてSFワールドに染め上げて完成させる。それが天才ニコラ・ジェスキエールの手法だ。今回の2024AWコレクションは、ジェスキエールの才能が凝縮された逸品だった。

ショーは終盤になると、クチュールライクなドレスが次々と登場する。だがBGMは、デューク・デュモン&ショウン・ロス(Duke Dumont & Shaun Ross)の”Red Light Green Light (For club play only, Pt6)”が流れ、シンセサイザーサウンドが麗しいドレスと対極のムードを表す。そしてBGMは冒頭の”Etudes sur voix mmxxii”が別バージョンで聴こえ始め、ショーはフィナレーレを迎えた。

伝統と歴史、未来と宇宙。ジェスキエールは時空を横断し、自由自在に結ぶつける。モデルたちが去った後、最後に現れたジェスキエールは、黒いクルーネックニットに、黒いスラックスと黒いレザーシューズを合わせた究極のシンプルスタイル。その姿が、コレクションの異質さをより際立たせる。ジェスキエールは自らを、コレクションの最後を飾るラストピースにした。こうして天才は、魅惑のダンスシーンの幕を閉じる。

〈了〉

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