純白すぎるほど純白のロイシン ピアス

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AFFECTUS No.511

ファッションにはメルヘンな世界が欠かせない。ピュアな白を基調に、ギャザーやフリルでフェミニンな表情を作り、夢の世界の住人のように可憐な服。そんなメルヘンウェアは、ファッションに必要不可欠なスタイルとして確立されている。

今なら「セシリー バンセン(Cecilie Bahnsen)」が、時代を代表する幻想ブランドだろう。ただし、バンセンのコレクションには甘さがかなり抑制されており、辛味に仕上げたファンタジーなウィメンズウェアと言えるだろう。ロンドンを代表する幻想ブランドといえば「シモーネ ロシャ(Simone Rocha)」の名が挙げられる。だが、ロシャも甘さは控えられ「悪魔な妖精」と呼ぶにふさわしい、ダークな空気を滲ませながらガーリーな白い服がランウェイを歩いていく。

2024AWシーズン、メルヘン文脈で興味深いブランドを発見した。それが「ロイシン ピアス(Róisín Pierce)」である。2020年設立のアイルランドを拠点にするブランドは、2019年の「イエール国際モードフェスティバル」で「シャネル(CHANEL)」が協賛するメティエ・ダール賞と市民賞をダブル受賞し、2022年「LVMHプライズ」ではファイナリストに選出されるほどの実力者だ。

ピアスの服を見たら「ピュア」「クリーン」「メルヘン」といった言葉が浮かぶはずだ。真っ白な生地を主役に、フリルやギャザーを多用し、ランジェリーライクなフォルムのドレスを数多く発表している。ピアスの服を着た女性は、ファンタジーな異世界から転移してきたように、現代ファッションとは別世界の趣を見せる。

ピアスのドレスを着て歩くモデルの姿には、天使や妖精といった形容が似合うだろう。だが、どうして。私はガーリーな要素が抑えられているように感じる。チュールやレースを多用した服は、セシリー バンセンよりもメルヘンに強く傾いているはずなのに、スマートなシルエットが幼さを抑え込み、純白の大人ドレスに着地させているのだ。

2024AWコレクションは、1ルックだけミッドナイトブルーのドレスを発表するが、そのほかの20ルックはすべて全身白のホワイトルックである。ピアスのコレクションは、装飾性の高さと肌を見せる特徴からデイリーウェアというよりも、ブライダルシーンで活躍するデザインだろう。最新コレクションにはパンツルックも発表されているが、チュールを使ったアンクル丈のワイドパンツは、カジュアルな雰囲気など一片たりともない。非現実のファンタジーウェアがそこにはあった。

最新コレクション発表の時期が訪れると、毎日が刺激であふれる。一方で、刺激に晒され続けると、クリーンな服を目の保養にしたくなる習慣が生まれてきた。私にとっては「マーガレット ハウエル(Margaret Howell)」がモード界のオアシスだが、今シーズンであったダブリン出身のデザイナーが作る純白の服の数々は、目と心を癒し、平静を取り戻す。穏やかになった精神は、新しいファッションを楽しむ余裕を再び生み出してくれる。

ピアスの服は非現実的だが前衛的ではない。ブライダルという祝福の場を想像させる白い服が、コレクションをアヴァンギャルドワールドには決して連れていかない。現実にいながら、現実とは遠い世界へ。そこでは意識が虚い、心地よくなっていく。白い布地を衣服に仕立て、目覚めながら見られる夢の世界を創り上げるロイシン ピアス。これからも、ファッション界に清涼で清浄な風を運んでくれるだろう。

〈了〉

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