さらなる進化を見せるメリル・ロッゲ

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AFFECTUS No.527

2019年のブランド設立時から注目されてきた「メリル ロッゲ(Meryll Rogge)」。アントワープ王立芸術アカデミーを卒業し、「ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)」のウィメンズ・チーフ・デザイナーを務めてきたキャリアには、自然と期待が高まるというものだ。

ドリス・ヴァン・ノッテンのコレクション製作を追うドキュメンタリー「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」(2017年公開)にも、ロッゲは登場し、インタビューに答えている。

デビューシーズンから「上品な下品」というオリジナリティを披露してきたが、ロッゲはオリジナリティを早々に発展させていく。コレクション発表を重ねるたびにスタイルに変化を加え続け、昨年10月に発表した2024SSコレクションでは、ロッゲ得意のボリューム感をベーシックなカジュアルウェアに取り入れた。このコレクションを見た際、私はロッゲのテクニックはジーンズやワークウェアなど、カジュアルウェアと相性がいいのではないかと感じた。

その実感は、3月に発表された2024AWコレクションでさらに深まっていく。いや、新しい事実も知ることになった。ロッゲの感性と技術はカジュアルウェアだけでなく、クラシックウェアでも発揮されるのだ。

グレー&ブラックのツートンカラーによるスタンドカラーブルゾンは、袖幅が広く作られ、ドローストリングを使ってウェストにブラウジングを完成させる。サイドに蛍光イエローを配色したスポーティなパンツは、溌剌とした爽快感を感じさせず、自分の部屋で怠惰に暮らす人物が着るルームウェアのようにルーズシルエットだった。

グレートーンのチェック柄を用いたコートは、ダブルブレステッドとピークドラペルが王道のクラシックを訴えるが、肩先が大きくドロップしたショルダーラインがルーズかつアンバランスな印象を植え付ける。燻んだパープルのカーディンガンも同じくドロップショルダーに仕上げ、身頃の幅もワイドに形作られ、ロッゲのボリューム感が披露されている。

このように2024AWコレクションは、ロッゲのボリュームを作るテクニックが、カジュアルにもクラシックにも活かされているのだが、このコレクションの個性は他にもある。ロッゲは初期に披露していた「上品な下品」というオリジナリティを、最新コレクションにも投入していく。

先ほど言及したパープルのカーディガンを例に挙げたい。このアイテムは生地に厚みがあり、非常にボリューミーな服だ。ロッゲはこの厚い生地のニットウェアの下に、さらに暗い色調のマスタードに染まったカーディガンを着用させており、カーディガン2着の重ね着という不思議なスタイリングを行なっている。

しかもマスタードのカーディガンは、パープルのカーディガンと同じ厚みの生地で作られ、厚い服の上にさらに厚い服をレイヤードするという、少々こってりとした重ね着を行っている。

そのほかのルックでも、ロッゲの不可思議なバランスはデザインされていた。

オーバーサイズシルエットの黒いレザーブルゾンを着た女性モデルは、ボトムにブラック&グレーのショーツを穿き、頭にはキャップを被り、首元には茶色のマフラーを巻いていた。そして、キャップの上から白い厚手のトップスを被り、頭部はバラクラバ的装いを見せる。無骨なレザージャケット、ガーリーなショーツ、ウクライナのクリミア戦争に起源を持つバラクラバと、様々な背景を持つ服が混在し、そのスタイルはこれまた少々戸惑いを覚える。

ラストルックのLook28では、黄色い生地にペイズリー柄のシャツ、花柄を模した刺繍が施された水色のカーディガン、テーパードシルエットの茶色いシックなパンツを着用。上品な貴族的雰囲気も立ち上がっているが、トップスの明るい色と装飾性、ボトムの渋い色とシックな形が奇妙なアンバランスを築く。

ロッゲはスタイルを調和させない。どこかでバランスを崩す。カジュアルでもクラシックでも、基盤となるアイテムはベーシック。ファッション普遍の服を、素材・シルエット・スタイリングによって奇妙なバランスを挟み込み、キッチュな感性を紛れ込ませる。それが、2024AWコレクションだった。

誰もが美しいと思うエレガンスはいらない。欲しいのは、これまでの価値観から外れた場所にあるエレガンス。もしかしたら、そのエレガンスを欲しいと思う人は少ないかもしれない。しかし、その人たちのためにロッゲはキッチュウェアを作る。

ストリートであれ、アウトドアであれ、どんなカテゴリーの服にもベーシックと言われる、多くの人々に愛されてきた普遍のアイテムがある。だが、すべての人が現在のベーシックを愛しているわけではない。ベーシックでありながら、現在のベーシックとは異なるベーシックを欲する人はきっといるはずだ。

人間の数だけ、スタイルの数はある。メリル・ロッゲは不思議な世界を愛する。彼女はファッションの可能性を閉じたりはしないのだ。

〈了〉

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