花鳥風月を彩るジョルジオ アルマーニ プリヴェ

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AFFECTUS No.529

1934年生まれのジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)は今年7月11日に90歳を迎えるが、彼の創作意欲は衰えを知らない。オートクチュールライン「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(Giorgio Armani Privé)」は、2024SSオートクチュールコレクションで発表されたルック数は92。緻密な技術と膨大な時間を要するオートクチュールで、これだけの数のルックを発表するだから恐れ入る。

細く長くなめらかなアルマーニシルエットは健在であり、 甘さと成熟のエレガンスがランウェイを歩く。アルマーニならではの燻んだ色調で、鮮やかさは演出しない。お淑やかで厳か、静謐で上質。それこそ「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(Giorgio Armani Privé)」である。

ノーカラージャケットは淡いピンクの素材を使い、花鳥風月をビーズ刺繍で表現し、ボトムは膝下丈のミディスカート&スリムパンツのレイヤード。薄手の生地を用いたスカートは、表面にクリスタルを散らばせて煌びやかだ。

とりわけショー序盤は、柔らかく薄い生地の使用が目立つ。シアーな生地で仕立てられた軽やかなピンクのローブは、襟元から襟端にかけて小さなラインストーンで縁取り、繊細さの極地をいく。

同じく透け感が特徴のピンクの生地によるシャツ&パンツは、シャツにはレースのアップリケを大胆に縫い付け、パンツはあまりに優雅な表情で、パンツというよりもドレスといった方がふさわしい美しさだ。

ロングドレスにも薄手の生地を使い、リュクスなロングシルエットを作り、生地の表面には植物の蔦を彷彿させるレース模様が浮かぶ。

アルマーニの色使いは明るさを取り入れても、鮮やかさは取り入れない。その特徴を表す色がパープルだ。「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」においてもパープルは多用されていた。色のトーンで言えば燻みや澱みを感じ、生地の表面を彩る豪華絢爛な装飾性が、高貴な色をいっそうノーブルなものにする。

怪しさもアルマーニに欠かせない。パープルの色調でもそうだが、アルマーニは暗く沈んだトーンを好む傾向がある。その怪しさと暗さは、まるで深い海域に生息する深海魚のようだ。ダークトーンのブルーやパープルが、流麗なスリムラインとセットになるため、怪しさが魔力的魅力を呼び起こす。

また、コレクション全体に東洋の美を感じるのはアルマーニにおける大きな特徴だ。アルマーニの装飾は曲線を多用した模様は多用し、アシンメトリー要素が強い。服の形もシンメトリーが基本形だが、シルエットの流動性が強いためにアシンメトリーな印象を受ける。

「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」はオートクチュールならではの装飾性が、アルマーニのオリエンタルな美しさをさらに際立たせる。左右対称の美を重視とする西洋のブランドでありながら、左右非対称の美に価値を置く東洋のエレガンスが感じられるデザイナーが、ジョルジオ・アルマーニと言えるだろう。色使いと柄のデザインを見ていると、東洋と言っても中国の芸術作品に近いエレガンスが感じられる。

ブランド規模を考えれば、もちろんアルマーニ本人が一点一点デザインしているわけではないだろう。だが、それでも今回の「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」だけでも92ルックを発表し、その他にも「エンポリオ アルマーニ(Emporio Armani)」、「ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)」をディレクションし、3つのラインを春夏・秋冬とそれぞれ発表している。とても今年90歳を迎える人間の仕事とは思えない。なんとタフなデザイナーなのだろう。

西洋と東洋の美を繋げる巨匠は、極上の技術と素材、そして逞しく衰えをしらない創造性と情熱で、特別な場で必要とされる特別な服を世界へ送り届ける。

〈了〉

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