エムエフペンを着て、ささやかに反抗する

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AFFECTUS No.546

もし自分がセレクトショップを始めるなら、ぜひとも取り扱いブランドの一つがコペンハーゲンブランド「エムエフペン(Mfpen)」だ。2024年3月10日公開「エムエフペンは肯定する」では、このブランドのクリーンなやさぐれ感がいいと述べたが、最新2025SSコレクションでも「エムエフペン」の個性は変わることなく輝いていた。

メンズとウィメンズ全33ルックから感じるのは「普通」ということ。決して特別な服ではない。色展開はブラック・グレー・ベージュ・ホワイトと「無印良品」を彷彿させ、アイテムのフォルムもディテールもいたってシンプル。モードシーンで発表されるコレクションとは思えないデザインである。

しかし、それでも惹き込まれてしまうのは麗しいおじさん感があるから。同時発表されたウィメンズは瀟洒な美しさを備え、ドレッシーな雰囲気もある一方で、メンズウェアはスーツを着用しているにも関わらず、男性モデルたちの姿には緊張感がない。スタイリングがルーズというわけではないし、むしろ上品な装いで綺麗にまとまっている。だが、達観した人間だけが持つ抜けた空気のようなものが漂っている。

「エムエフペン」の2025SSコレクションを見ていると、こんなふうに思えてきた。綺麗な服を完璧に着こなす必要はないんだと。

ニットの裾からシャツの裾を出していいし、シャツにネクタイという凛々しい組み合わせに合わせるのは、テーラードジャケットではなくてワークブルゾンでいいじゃないか。白いシャツとネクタイに、チャコールグレーのトラウザーズ。まさにクラシックの王道をいくスタイル。だが、トラウザーズはストリートキッズが穿くチノパンと同様にルーズシルエットを選ぶ。

「エムエフペン」を着る男性モデルたちは最新コレクションを端正に着こなしているが、張り詰めていない。メンズウェアの伝統に対してささやかに反抗する。そんなストリートマインドが隠れており、その絶妙な塩梅がとても心地よい。

「ボーターのTシャツ、似合わないね」

好きで着ていたボーダーTシャツを、そんなふうに言われたら傷つくが、同時に「ほっとけ!」とも言いたくなる。けれど、そんなことを口に出して伝えるほどの勇気はない。「ああ、だよね?」と乾いた笑いと共に軽く受け流し、翌週にはまたボーダーのTシャツを着て、件の発言の人物と会う。反抗はささやかにおだやかに。

「起業して世界を変えたい!」なんて野心は微塵もない。月曜から金曜まで粛々と働き、休日は好きな服を着て、好きな食事をして、好きな人たちと会う。そんな毎日こそが自分にとっての幸せ。たとえあふれていると言われても、愛する普通の日々を否定なんてできない。理想の心地よい毎日には「エムエフペン」が似合う。

北欧のクリーンウェアは、刺激的なモードとは別の角度からファッションを楽しませてくれる。鮮烈さも大胆さもいらない。必要なのは今を、今よりほんの少し気持ち良くする服。だから、「エムエフペン」が最新シーズンも気になってしまう。

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