ディヴィジョンが完成させたのは野生味が漂うカワイイ

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AFFECTUS No.547

注目のコペンハーゲン・ファッションウィークの2025SSシーズンがついに開幕した。今回からしばらくは、北欧の地で発表されたコレクションを中心にお送りしよう。本日は、フェミニン&ストリートな服を作り上げる手法にオリジナリティを発揮した「ディヴィジョン((Di)vision)」をピックアップしたい。

2018年、「ディヴィジョン」はサイモン・ウィック(Simon Wick) とアンナ・ウィック(Nanna Wick) の 姉弟によって設立された。興味深いのはサイモンのキャリア。彼はファッションの専門教育を受けたことはなく、高校卒業後すぐにデンマークのブランドで働き始め、ファッションビジネスの基礎を身につける。すると、モデル事務所にスカウトされたことをきっかけに、今度はモデルとして活動し、ファッション業界を別の角度から経験していく。

その後、サイモンのキャリアは再び転換する。彼はショップ運営とカスタマーサービスについて興味を持ち始め、コペンハーゲンのセレクトショップで働くことになった。こうしてサイモンは、複数の職業と仕事を通じてファッションデザイン以外のことを10代から経験したのち、姉のアンナと共にシグネチャーブランドをスタートさせたのだった。

「ディヴィジョン」の根幹はサステナビリティにある。コレクションはヴィンテージやデッドストックから製作され、古い服や廃棄された素材を使用し、新しい価値を持った服にデザインする。この点だけを聞くと、特筆するコンセプトではないように思う。誤解なきよう述べるが、決してサステナビリティが重要ではないと言っているわけではない。これは、あくまでファッションブランドのビジネス的観点からの言及になる。

現在ではサステナビリティをコンセプトに掲げるブランドが増加し、環境に配慮した服作りを押し出すだけではマーケティング的に埋没してしまう。若手ブランドが認知を高めるためのビジネス視点を考えた時、サステナビリティに加えて、そのブランドならではの独自性が必要な時代が今と言える。そんな時代にあって「ディヴィジョン」のコレクションには、サステナビリティに独自の個性が加えられていた。

雑多なストリート感が「ディヴィジョン」の個性だ。

代表例として、いくつかのルックをピックアップしたい。カーキ色のミリタリージャケットは、袖口と裾に白いレースを取り付けているのだが、取り付け方がいい意味で粗雑なのだ。ジグザグにカットされた袖口と裾に純白のレースを縫い合わせているだけでも粗雑だが、加えて白いレースとカーキの生地の切り替え部分は、切れっぱなしの生地端をあえて露わにしたまま縫い合わせ、無造作感を漂せている。

オーバーオールは、デニムと黒&白のチェックが織られたツイードをパッチワーク。青いデニムは薄く白く色褪せ、素材感も退化しており、ツイードもペンキか何かをこぼしたように白や黄色で汚れている。くたびれた表情の二つの素材を、これまた切りっぱなしのまま、かつアシンメトリーに縫い合わせて乱雑な表情だ。

腰穿きされたブラックジーンズは側面に白いファートリミングを取り付け、タキシードパンツを連想させる。だが、ファートリミングは完璧に縫い付けられているわけではなく、ただぶら下がっているだけ。

「ディヴィジョン」の服から最初に受ける印象はカワイイなのだが、カワイイを作り上げる手法が荒々しくパワフルと結果と過程が相反している。乱雑なアプローチは素材の組み合わせだけにとどまらない。先述したように、繊細で可憐なレースをミリタリーウェアとドッキングさせたり、他には白いレースをスポーティなトップスと組み合わせたアイテムが登場したりと、異なるカテゴリーのファッションを一つにし、荒々しくパワフルな服を完成させる。

使い古された古着をフェミニンに再構築。だが、フェミニンを完成させる手法はグランジ。結果誕生したストリートウェアは、雑多で野生味が漂うカワイイ。それが「ディヴィジョン」が、アップサイクルウェアに加えた個性である。今回のコレクションはメンズとウィメンズの同時発表だったが、「ディヴィジョン」の個性が最も現れていたのはウィメンズラインだ。

また、2025SSコレクションはビジネス的にも興味深い展開が行われている。このコレクションは「25SS The Dream of Steam City」と来年の春夏シーズンが明示されているが、発売は半年後ではない。「ディヴィジョン」のブランドサイトでは、すでに2025SSコレクションの発売が開始されていた。気に入った服があれば、発表されたばかりの最新アイテムが今すぐ購入できる。興味のある方は一度ブランドサイトを覗いてみて欲しい。

コペンハーゲン・ファッションウィークに参加するブランドの特徴は、リアルな服をベースにデザイン性を強く打ち出す点にあるが、北欧デザイン伝統のクリーンなテイストが散りばめられてる。大胆な異素材の組み合わせやダークな色使いが展開されても、コンパクト&リアルなシルエットが多いためにスマート。今は驚異的な造形の服に驚きはあっても新しさを感じない。普通の服を元に驚きを作る。そこに現代ファッションの新しさがある時代と言えよう。最先端デザインをキャッチアップする意味で、コペンハーゲンのチェックは欠かせない。

モダンファッションをリードする北欧のパワーを、「ディヴィジョン」は実証した。カワイイとワイルドを一つにし、ウィック姉弟はストリートを駆け抜けていく。

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