本日は先月に公開した「ロルフ エクロスは思い出を服に表現する」(2024年8月12日公開)でもピックアップした「ロルフ エクロス(Rolf Ekroth)」2025SSコレクションの展示会に伺ってきた。そこで今回は、会場で撮影した写真やコレクションのルックと共に、実際に最新ウェアを見たレポートをお送りしたい。
2025SSコレクションのテーマは「ラヴァタンシット(Lavatanssit)」。この言葉は、フィンランドの夜に開催される社交ダンスを意味している。「ロルフ エクロス」はフィンランドの伝統をテーマにすることで、このブランドのDNAであるノスタルジーを具体化する。
だが、「ロルフ エクロス」はシーズンテーマの表現だけに注力するブランドではない。シーズンテーマを軸に、デザイナーのロルフ・エクロスが様々な要素をいくつも取り込み、コレクションを作り上げていく。
「ロルフ エクロス」はノスタルジーで統一されているが、北欧伝統のクリーンデザインでというわけではない。常に複数の要素が絡み合う。最初に見たテーラードジャケットもそうだった。
形はスタンダードだが、素材には1種類のチェック柄と2種類のストライプ柄を使用。柄の生地は色もそれぞれバラバラで、ベーシックな服をシンプルには収めていない。今回のコレクションで登場する柄生地や細畝のコーデュロイは、その質感と雰囲気は古着屋で見つけた父親世代の服とも言うべきクラシカルなもの。そんな懐かしさが「ロルフ エクロス」の服にノスタルジーを運ぶ。
ただし、このコレクションに「甘い」や「ほっこり」という表現は似合わない。ほんの少しだけ、ホラーな暗さが滲む。花柄や変形の迷彩柄がフィンランドブランドが持つダークな側面を表す。
どこか淀んだムードの花柄を見ていると、オランダの巨匠フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)の絵画が思い出されてきた。花の美しさを讃えるのではなく、花の怪しい魅力がグラフィックとして目に見える形となった。
厳密に言えば従来の迷彩柄とは異なる。だが、その色味と、模様が曖昧に溶け合う柄のデザインは何かを紛れ込ませて隠すかのようで、まさにカムフラージュ。一方で、大胆なファンタジーも披露するのが「ロルフ エクロス」。ジーンズは250本ものタンポポが咲き誇った。
デザイナーのエクロスの母親が手編みで作ったワッペンは今シーズンも登場。オーバーサイズのブルゾンは逞しいシルエットの上で、絵本を思い起こすメルヘンな世界が連なっていく。
アイスホッケーのユニフォームを連想させるライン使いのトップス、足元のソックスとサッカーのスパイクの形状に近いスニーカーがスポーツの要素を訴えてくる。
前回の2024AWコレクションで初めて「ロルフ エクロス」の服を実際に見た時、最も印象に残ったアイテムはニットだった。最新シーズンもその魅力は不変だ。
2025SSコレクションでおすすめしたいアイテムはアウター。シルエットはオーバーサイズで、素材感にオリジナリティが香る。1着纏えば存在感を発揮するアイテムである。
MA-1タイプのブルゾンも個性的だった。アメリカ空軍のパイロットが着用していたフライトジャケットに由来する、ミリタリー要素の強いブルゾンを優しいベージュの編み柄素材で作る。服の持つ文脈を書き換える行為と言っていいだろう。ファッション普遍のアイテムは新しい個性を獲得した。そこにバラクラバ風のアイテムが、さらに異なる文脈を加え、スタイルをいっそう個性的に見せるのだった。
スポーツ、クラシックといったように、いくつもの要素を混ぜ合わせてストリートウェアとしてまとめ、ノスタルジーに統一する。コレクションはかわいいという感情を呼び起こすが、カオスな印象も強い。
アイテムやルックを見ていると、どこに今回のテーマである社交ダンスの「ラヴァタンシット」が表現されているのかと、疑問に思う人がいるかもしれない。たしかに社交ダンス的なものが感じられたのは、ロング丈のティアードスカートぐらいではないだろうか。
だが、エクロスは幼い頃、父親が「ラヴァタンシット」に参加する様子を奇妙に思っていたそうだ。伝統に対して抱いた不思議な感情は、種類の異なるファッションが混じり合う2025SSコレクションに通じるものがある。つまり、エクロスは社交ダンスからダンス的なファッションを取り出して表現するのではなく、夏の屋外で行われる、フィンランド伝統のダンス文化に抱いた自分の不可思議な感情を、様々なスタイルが混じり合うカオスとして表現したと言えないだろうか。
一見すると遊び心にあふれたコレクションには、ファッションを読む面白さが潜んでいた。「ロルフ エクロス」は着る者だけでなく、服を見る者も楽しませる。「ムーミン」を生み出した童話作家の母国は、ファッションでも想像を刺激してくれた。
Instagram:@rolf_ekroth