ファッション界でも謎多きサトシ ナカモト

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AFFECTUS No.580

仮想通貨ビットコインの開発者として知られるサトシ・ナカモトは、その存在さえ疑われるほど正体不明の人物だが、世界中に名が知られるミステリアスな人間の名前をブランド名にする「サトシ ナカモト(Satoshi Nakamoto)」も、デザイナーが非公開であり、ブランドサイトを訪れても背景情報がまったく掲載されていない謎多きブランドだ。

近年注目されるロサンゼルス発のストリートブランドは、モータースポーツ、ヴィンテージウェアの要素を積極的に取り入れ、グラフィックやダメージ加工、ルーズシルエットを用いたストリートウェアを展開する。久しぶりに王道系のストリートブランドが登場したという印象だ。「サトシ ナカモト」は、前回のタイトルでテーマにした清々しいまでクリーンかつミニマルな「ジョウンド(JJJJound)」とは対極のストリートウェアに位置する。

ブランドの情報を知りたいと思い、ブランドサイトを訪れても先述したように情報は皆無。日本国内のメディアで「サトシ ナカモト」を詳細に伝えるメディアも、今のところ見られない。わずかに情報を確認できるのが、「ヌビアン(Nubian)」や「エレファンツ(Elephants)」といった、日本国内で「サトシ ナカモト」を取り扱う数少ないセレクトショップの発信だけだ。それらの情報もアイテムに関わる情報がほとんどであり、ブランドの背景を詳細に知ることはできない。

そうなると、海外メディアの発信を探るしかない。当初、インタビュー記事がないものかと探してみたが、やはり見当たらなかった。ただし、わずかながらに注目の情報が「ハイスノバイエティ(Highsnobiety)」の記事から見つかる(参考資料のリンクは文末に明記)。

同メディアの記事によると、カリフォルニア州の企業記録ではSatoshi Nakamoto LLCのマネージャーが、ジョージ・ロバートソン(George Robertson)であるということ。ロバートソンは、2016年にルイージ・ビラセノール(Rhuigi Villasenor)が率いる「ルード(Rhude)」に5万ドルを投資し、同ブランドの株式を20%保有する少数株主である。彼は音楽業界のコネクションを活用して、「ルード」の成功をサポートした人物だ。「ルード」のカリフォルニアスタイルは、NBAプレーヤーやミュージシャンからの支持を掴み、人気ブランドへと成長した。

だが、2023年6月、ロバートソンは「ルード」のデザイナーであるビラセノールを、会社の資金を私的流用して豪華なライフスタイルを楽しんでいると提訴した。「ロサンゼルスタイムス」によれば、「ルード」は年間3,000万ドル以上の収益を上げているとされる中で、ロバートソンは年間わずか41,000ドルしか分配されていないと主張している。

ロバートソンは、キャリアを見る限りストリートウェアの成長に長けた人物と言えるだろう。そんな人物が「サトシ ナカモト」にも関わっていると思われる。しかし、肝心のデザイナーがどんな人物かは不明だ。ただ、謎を解明するヒントが意外にも「サトシ ナカモト」のInstagramアカウントにあった。ブランドアカウントはフォロワー数が現時点で4.7万人ほどで、2アカウントだけフォローしている。その一つが、@bornfrompain.jpというアカウントだ。

このアカウントは、イアン・コナー(Ian Conner)とシッコ・オーエン(Sicko Owen)によるブランド「シッコ(Sickö)」のアカウントになる。「シッコ」は新しい才能に敏感なヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)や、ドレイク(Drake)といったアーティストも着用するストリートブランドとして注目された。コナーはエイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)のスタイリストを務め、スニーカーブランド「リベンジ x ストーム(Revenge X Storm)を立ち上げたデザイナーで、Instagramでは100万人を超えるフォロワーを有するインフルエンサーでもある。一方、オーエンはというと、まったく情報のない謎の人物である。

「シッコ」のデザインを見ると、ヴェンテージウェアの要素や文字を重視したグラフィックデザインに、「サトシ ナカモト」との共通性が見られる。憶測になってしまうが、「サトシ ナカモト」のアカウントがフォローするということから、コナーとオーエン(実在するのか?)が「サトシ ナカモト」のデザインに関わっているのではないだろうか。Googleでコナーを検索しようとすると、“Ian Conner Satoshi Nakamoto”といった具合に検索ワードがセットで候補に上がってくる。同じことを考える人たちが多いと言える

謎は多いが、謎を明かすヒントを匂わして話題性を呼ぶ手法はロバートソンの発案だろうか。ブランドの認知度を上げるトリッキーな手法は、「カルバン クライン(Calvin Klein)」の広告を利用した「シュプリーム(Supreme)」ほどのインパクトはないが、実にストリートブランドらしい手法だ。

一時期のストリートブームが鎮静化したのは確かだが、だからといって「ストリートウェアは終わった」と断言はできない。今でも、数多くのブランドが注目のコラボレーションを発表し、ストリートブランドはファッション界の存在感を放っている。「サトシ ナカモト」は謎を武器に、その名を徐々に世界へ広めていく。

〈了〉

参考資料
Highsnobiety “Satoshi Nakamoto Made a Classic Vans Skate Shoe Punk”
Los Angels Times “Rhude streetwear founder raided company to fund lifestyle, lawsuit says”
Hypebeast “Sole Mates: George Robertson and the Nike Mag”

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