AFFECTUS No.590
ChatGPTやClaude、GeminiといったAIを日常生活で使うことが浸透してきた。AIはアドビのイラストレーターやフォトショップのように、デザイン作業に欠かせないツールとなり、クリエイターの思考をアシストする存在になっていくかもしれない。一方で、ライティングという観点から私自身がAIを使った際に感じるのは、AIから生まれるアイデアがコンサバティブであり、無難な印象を受けることだ。ただし、アイデアを具体化する際には冴えを感じる。たとえば記事のテーマを考える際にAIの発想に驚くことはほぼないが、そのテーマについて書くために必要な言葉を見つけ出すのは得意という印象を受ける。「そういう表現があったか」と唸ることが珍しくない。
先日、InstagramのストーリーズやXでも紹介したが、「カーサブルータス(Casa Brutus)」の記事が面白かった。
「バイオ×AI。最新テクノロジーを駆使した〈ニュートラルワークス.〉のモノづくり。」(Casa Brutusより)
この記事では、「ゴールドウィン(Goldwin)」によって2016年に始まったブランド「ニュートラルワークス.(Neutralworks.)」が、次世代素材「Brewed Protein」と生地ロスを削減するAI技術「SYN-GRID」を用いて、一着のアノラックを製作する過程が書かれている。私が最も面白いと感じたのは、AI技術「SYN-GRID」だった。
「SYN-GRID」は、日本発のファッションテック企業Synflux(シンフラックス)社と「ニュートラルワークス.」が共同開発したテクノロジーで、Synflux社のAIアルゴリズムと3D技術により、裁断時に出る生地ロスの削減を実現する。今回のプロジェクトではパターン製作の段階からこの技術を活用し、生地ロスを最小限に抑えたパターンを作成した。当初、この説明だけを読むと、ファッション的に面白いフォルムが生まれるようには思えなかった。
しかし、実際にはAIが生地ロス削減のために通常とは異なるパターンを生み出し、結果として特異な袖の形状を持つアノラックが誕生した。完成したアノラックの袖のパターンを見ると、変形キモノスリーブのような趣で、通常の服ではあまり見られない形状だが、特別に奇抜というわけでもない。それでも、生地ロス削減という合理的な目的が、結果として服の形に影響を与え、興味深い袖のデザインを生み出した点が非常に面白い。
ファッションが作られていく過程を見ていると、一見すると非合理に思えることが面白さを生むことが多い。無駄なく効率的に作ることだけを重視すると、服の魅力が失われることもある。しかし、「SYN-GRID」は究極に合理的なアプローチを取りながらも、結果的にユニークな袖の形を生み出した。
この現象には、なんとも言えない奥ゆかしさを感じる。
今の私は、AIとの服作りに強い関心を持っている。その気持ちは、今までにない面白い服を見たいという願望から来ている。服作りの手法自体をデザインすることも、面白い服を生み出すために必要なことではないだろうか。AIが服作りのプロセスに入り込むことで、ファッションがさらに進化していくなら、その未来をぜひとも見てみたい。未来のファッションを想像すると、ワクワクが止まらない。
〈了〉