サステナブル・パンク、主張しないエムエフペンの反抗

AFFECTUS No.622

4月23日、「LVMHプライズ」2025年のファイナリスト8組が発表された。「アランポール(Alainpaul)」、「ゾマー(Zommer)」といった以前から個人的に注目していたブランドが選出され、日本からは「ソウシオオツキ(Soshiotsuki)」が選ばれた。その中でも興味深かったのが「オールイン(All-In)」。創業者のベンジャミン・バロン(Benjamin Barron)とブロール・オーガスト・ヴェストボ(Bror August Vestbø)は、もともとファッション誌を創刊し、のちにファッションブランドを立ち上げているプロセスは、ベルリンのカルチャーメディア「032c(ゼロスリーツーシー)」を彷彿させる。オールインは別の機会に詳しく取り上げたいと思う。

さて、今回私が最も注目していた「エムエフペン(Mfpen)」は、残念ながらファイナリストには選ばれなかった。だが、それがこのブランドの価値を損なうものではない。むしろファイナリストだけでなく、セミファイナリストを含めても、エムエフペンは異質な存在だった。

今回選ばれたファイナリストの多くは、出自や文化的背景と深く結びついた、強い物語性を持つ。伝統的な染色技法やアフリカン・ルーツを再解釈した「トル コーカー(Tolu Coker)」、セントラル・セント・マーチンズMA(修士)在学中に培った布地のアップリケとカッティングの技術を駆使する「スティーブ・オー・スミス(Steve O Smith)」、バロック芸術と現代を融合させる「フランチェスコ ムラーノ(Francesco Murano)」などがその好例だ。ソウシオオツキも、昭和期のスーツからインスパイされたダンディズムが特徴で、文化的な結びつきが見られる。

それに対し、エムエフペンは強い物語も装飾的な演出もなく、かなり薄味といっていい。エムエフペンの服が、創業者兼デザイナーであるシガード・バンク(Sigurd Bank)の背景と結びつきがないわけではない。エムエフペンはデンマーク・コペンハーゲンを拠点に、デッドストックの生地やリサイクル素材を用いたミニマルな服作りを行い、設立は2016年。サステナブルが「トレンド」になる以前から、バンクはすでに静かに実践していたのだ。

だが、バンクははじめから使命感があったわけではない。デザインや生産の仕事をするなかで、倉庫に山積みになったデッドストック生地を前に「これで何か作れないか」と感じたことがきっかけだったと「ポーズ(Pause)」 のインタビューで語っている。使命ではなく偶然。その簡素な起点にこそ、エムエフペンらしさがある。

今年のLVMHプライズのセミファイナリスト20組の中で、エムエフペンの物語性が薄味であることを否定的に捉えてはいない。むしろ、エムエフペンには「サステナブル・パンク」とも言うべき魅力が備わっているのだ。

現代の消費社会は、「サステナブルであること」「透明性を持つこと」をブランドに求め、ファッション界全体が「どこで・誰が・どうやって作ったか」を大切にする時代が訪れている。その意味で、エムエフペンも「サステナブルなブランド」に分類される。しかし、エムエフペンがサステナビリティを強く主張することはない。ブランドサイトの“ Production Values”では、デッドストック生地、生分解性素材とレンチング繊維、オーガニックコットンを使用する理由など、サステナブルな生産について感情的に訴えかけるのではなく、事実や取り組みを静かに整然と説明し、ミニマルな語り口で情報提供に徹している。

まるで読み手にエムエフペンの取り組みについての判断を委ねるような潔さだ。そこにエモーショナルな思いはない。まさにミッションと述べるにふさわしい冷静さ。

服そのものもエムエフペンは、「ベーシック」や「ミニマル」といった表現がよく似合う。色使いはグレーやブラックなどの無彩色を多用し、静かなトーンで色彩を展開する。フォルムデザインも複雑なパターンワークは見られない。一見すれば、ノームコアの後継プロダクト、クワイエット・ラグジュアリーのカジュアルライン、そう呼べるかもしれない。

ノームコアはシンプルな装いの裏に自己表現を忍ばせ、クワイエット・ラグジュアリーは見えない部分にラグジュアリーを秘める。だが、エムエフペンにそうした「内に込めた美学」すら感じさせないほど静か。

エムエフペンは世の中に思想的メッセージを伝えようとしていない。ただ、サステナブルな服作りを行っている事実を伝えるだけで、服の価値にフォーカスさせている。それは、語る現代への反抗だ。

熱くたぎらない、冷たく静かな服は無表情なパンク。エムエフペンは、主張せずに主張する。

〈了〉