AFFECTUS No.675
デザイナーを読む | FEMININE STUDY #4
シューティン・チウ
ピンク、フリル、刺繍、花柄。甘さと可愛さのフルコースと言えるほど、シューティン・チウ(Shuting Qiu)の服にはフェミニンが隅々まで装飾されている。シルエット自体は大人しいが、大胆な色彩と装飾のコンビネーションは、ほのかに不穏さが漂う。10月に発表された2026SSコレクションは、外から陽光が柔らかに注ぐ会場でショーが開催されたが、モデルたちの装いに「ホラー」という言葉が浮かんだのはなぜだろうか。チウのデザインは、フェミニンの定義を揺さぶる。
▶︎FEMININE STUDY #2 ポーリーン・デュジャンクールは、闇ではなく影を主張
可憐に見せるはずの技術と素材で、暗い可憐さを作り込む才能。
→ AFFECTUS No.645(2025. 8. 6公開)
上海を拠点に活動するチウはベルギーのアントワープ王立芸術アカデミー出身であり、2018年に自身の名を冠したブランドを設立した。使用する素材の60%はデッドストックから調達したもので、チウは持続可能性を大切にしながら、創造性を限界まで発揮していく。
彼女の最も大きな特徴は、コンビネーションにある。素材と素材、色彩と色彩、形と形。それぞれを組み合わせた時に、自由奔放、大胆不敵に見えることを重要視している。そんなダイナミズムが迫ってくるルックが、ランウェイに登場する。
2026SSコレクションを例に、チウのデザインを見ていこう。
黒地をベースに、淡いイエローがわずかに光を含んで浮き上がる花柄ジャカードを、クルーネックのショートカーディガンに落とし込む。その姿はお淑やかであり、同時に重厚でもある。ボトムに合わせているのは膝下丈のタイトスカート。形だけを見れば、これぞ「コンサバ」というシルエットだ。しかし、その素材は黒いチュールの上に、スパンコールとビーズの断片がほどけた飾りのように縫い留められた仕上がりで、とても「保守的」ではない。保守性が裏切られたと思いきや、首元に視点を戻すと、第一ボタンまできっちりと留めたシャツの襟が覗いていた。
「花」はチウが繰り返し使う重要なモチーフだ。しかし、彼女は花を甘く演出しない。
▶︎ゴースト・イン・ウェルダン
ガーリーを黒く染め、可愛さの輪郭を裏返すデザインの物語。
→ AFFECTUS No.287(2021. 11. 10公開)
それを象徴するのが、このミニドレスである。茶色いスパンコール地のドレスは、肩まわりに薄い別布を重ね、フレンチスリーブのような形を作り出している。その布はごく薄く、肌を透かし、色の断片がにじむ「ステンドグラスの欠片」のような表情を持つ。光を透過するその布は肩だけに留まらず、身頃へと這うように広がり、渦を巻きながら立体化し、花の蕾を思わせる形を作る。甘さよりも、増殖する花のエネルギーを感じさせる仕上がりだ。
チウは「カワイイ」を可愛く作らず、怪しく作る。色は踊り、布は跳ねる。「シューティン チウ」のトップスやドレスは、目で感知する情報以上に、立体的だ。
フェミニンを軸に、コンサバ、クラシックと、伝統的な女性のスタイルを融合させる。けれど、チウの感性が伝統に倣うことを許さない。ファンタジーさえ感じさせる一着が完成している。ただし、そこにはほんのりと狂気が滲む。「あなたの信じるカワイイと、私の信じるカワイイは違う」。そんなメッセージが感じられるほどにダイナミック。
抑制と大胆を行き来し、シューティン・チウは自分の理想を創る。
〈了〉
▶︎フェミニンな世界を反転させたミュウミュウ
可愛さが暗さへと転じる、その“感情の揺れ”を読む。
→ AFFECTUS No.252(2021. 4. 4公開)