AFFECTUS No.705
コレクションを読む #32
「チョポヴァ ロウェナ(Chopova Lowena)」 の2026AWコレクションには、このブランドの特徴がよく表れていた。三つ編みヘア、パフスリーブ、蝶のモチーフ。少女を思わせる要素が随所に見られる。しかし、その少女性は素直な可愛らしさへと向かわない。チェックやダイヤ柄といった伝統的なパターン、そして服装史の教科書に登場しそうなコルセットや膨らんだスカートのシルエットが重なり合い、装いはどこか奇妙な緊張を帯びていく。甘さや可愛さは、そこでいったん突き放される。残るのは、ガーリーでありながら妙に力強い少女像だった。
▶︎ 関連コラム
クリスチャン・ディオールとセシリー・バンセン
→ AFFECTUS No.206(2020.6.2)
コレクションを細かく見ていくと、その少女性はさまざまなディテールによって表現されている。小さなバッグ、アーガイル柄のソックス、装飾的なヘアメイク。どこか無邪気な装いを思わせる要素がスタイリングの中に散りばめられている。ブランドの世界観の中心に、少女性が置かれていることは疑いない。
その衝突を生み出しているのが、チェックやダイヤ柄といった伝統的なパターンである。スコットランドのタータンを思わせるチェック、幾何学的なダイヤの配置、あるいは花柄の装飾。こうしたパターンは単なる装飾として使われているわけではない。むしろ、それらは民族衣装やフォークロアを想起させる要素として機能している。
▶︎ 関連コラム
民族衣装の特徴を現代ファッションと融合するヘド・メイナー
→ AFFECTUS No.139(2019.4.30)
このブランドのデザインの背景には、東欧の民族衣装への関心がある。伝統的なテキスタイルや手工芸の感覚が、コレクション全体の土台となっているのだ。だからこそ、ここで描かれる少女像は、いわゆるポップカルチャーの少女とは少し違う。ディズニー的なファンタジーの少女ではなく、民俗文化の中に存在してきた少女のイメージに近い。どこか神話的で、少し不穏な気配を帯びている。
さらに今回のコレクションでは、そこに服装史のシルエットが重ねられていた。コルセットを思わせるボディライン、腰から大きく広がるスカート、身体を構造的に形作るドレスのフォルム。これらは、19世紀のドレスを連想させる要素だ。服装史の教科書に登場していてもおかしくないようなクラシックなシルエットが、現代の装いの中に現れている。
普通なら、こうしたドレスの構造はエレガンスを強調する方向に働く。しかし、このブランドの場合は少し違う。少女的なモチーフ、民族的なパターン、そして歴史的なドレスの構造。それぞれ異なる文化的背景を持つ要素が一つの装いの中で重なり合うことで、どこか落ち着かない印象が生まれる。可愛らしさと伝統、そして歴史が、完全には調和しないまま同居している。
その結果、甘さや可愛さはそこで一度突き放される。装いに残るのは、ガーリーな要素だけではない。そこにはどこか力強い印象が生まれている。
この力強さは、少女という存在の扱い方から生まれているのかもしれない。多くのガーリーなファッションが目指すのは、「可愛く見られること」だ。しかし、このブランドの少女はそうではない。誰かに守られる存在として描かれているわけでもない。民族文化や歴史の記憶をまとい、自分で自分を守る少女として現れている。
だからこそ、このコレクションの少女は不思議な印象を残す。三つ編みやパフスリーブといった可愛らしい要素を持ちながら、その佇まいは力強い。守られる少女ではなく、自分の足で立つ少女の姿がそこにある。ガーリーでありながら、決して弱くは見えない。
可愛さとは、必ずしも守られることを意味しない。
チョポヴァ ロウェナの2026AWコレクションは、少女性の別の可能性を示していた。
〈了〉
▶︎ 関連コラム
フェミニンな世界を反転させたミュウミュウ
→ AFFECTUS No.252(2021.4.4)