AFFECTUS No.124
現在、連日様々なブランドのコレクションが発表されているニューヨーク2019AWコレクション。先日、僕の好きなNYブランドが最新コレクションを発表した。プロエンザ・スクーラーだ。プロエンザ・スクーラーのデビューは2003AWシーズン。デザイナーはNYの名門ファッションスクール、パーソンズ出身のジャック・マッコローとラザロ・ヘルナンデスの二人。ブランド名に二人の名前は入っていないが、ジャックとラザロ、両者の母親のミドルネームから命名されている。そのちょっと捻りの効いたネーミングを初めて知った時、僕は興味を惹かれる。
ジャックとラザロは、パーソンズ在学中からマーク・ジェイコブスやマイケル・コースといったNYを代表する王道ブランドでインターンを経験した、生粋のNYデザイナー。
デザインのベースは、NYのシティスタイルに必須となるリアルアイテムばかり。そこにNYで育まれたジャック&ラザロのクール&モダンな感性が注ぎ込まれ、リアルアイテムは一夜にしてモードの香りをふんだんに纏うアイテムへと変貌する。彼らのデザインに、抽象的アヴァンギャルドの香りは皆無。いかに現代の都市生活を生きる人々の気分を高揚させるか。そんなリアリティとファンタジーが潜んでいる。
そんな現代的香り濃厚なプロエンザ・スクーラーだが、2018SSシーズンからは発表の場をパリに移していた。しかし、パリで2シーズンだけ発表するとNYへ帰還する。
パリでの発表と、NY復帰後の2019SSコレクションについて彼らはこう語る。
「シャネル(CHANEL)やディオール(DIOR)のようなビッグメゾンと同じ場所で発表するにあたって、技術的な面で既成概念の枠を超えることを目標にしていた。比喩的な表現には頼りたくなかったし、それらすべてを取り除くことが課題だった。その為に、とにかくシンプルな素材にこだわったんだ」VOGUEより
わずか2シーズンだったが、僕はパリでの経験がブランドに新しい息吹を吹き込んだように思える。以前にも増して、コレクションにラグジュアリーなムードが加味されるようになったのだ。NYの現代性とパリの美意識の融合。プロエンザ・スクーラーのDNAは進化を見せる。
2019SSコレクションで目を惹いたのはブリーチしたデニム。まさにNYを語るにふさわしいファブリックだ。一方で精緻な技巧を施した、パリオートクチュールを思わすラグジュアリーなディテールも登場する。ジャックとラザロは、そのクチュールライクな要素を現代都市生活のスタイルへと溶け込ませ、未来のシティスタイルを提案する。
ショー会場のセレクトにも彼らのNew Visonが垣間見える。
数ヶ月前までは、クリエイティブカンパニーのオフィスであったようなクリーンなムード漂う広大なフロア。しかし、今ではもぬけの殻となり、かつて働いていた人々の残像が残る寂しさが匂う。
そこにプロエンザ・スクーラーはコレクションを通して未来へのNew Visionを提示した。追いすがる過去が追いつけない疾走感でもって。
NY復帰後2シーズン目となる2019AWでは、その近未来性に拍車がかかる。
ファッション界を席巻するストリートカジュアルにカウンターを仕掛けるように、テーラードジャケットがいくつも登場し、ブラックをベースカラーにしたシックな装いが疾走していく。テーラードジャケットやトレンチコートの上からは黒いライダースのベストがレイヤーされ、リアルでありながらモードを表現するというスタイルをジャックとラザロは僕らに披露する。
彼らが発表するドレスも、パリの社交界やNYのレッドカーペットを飾る豪華さとは一線を画す。クールでスレンダーなシルエットに、多種多様な色と切り替えが交差し、女性のボディを魅惑的に見せるカッティングがモダニティあふれるエレガンスを演出する。モデルたちのウォーキングにドレスの裾は翻り、その残像を追っていると彼女たちはいつの間にか過ぎ去っていくかのよう。
今を見るのではなく、未来に視線を向ける。
プロエンザ・スクーラーはファッションを未来へ押し進める。そのハイセンスでモードな姿勢を武器に。
〈了〉