AFFECTUS No.555
ドライなタッチのウール素材に思わず笑みがこぼれる。ちょっとオーバーサイズのジャケットに袖を通し、鏡を見た瞬間、優しく柔らかな佇まいに気持ちがほぐれた。「マーガレット ハウエル(Margaret Howell)」には、日常をささやかに変える魔法が潜む。
チョークストライプの二つボタンジャケットは、ボタン位置がやや高めで、ラペル幅もやや細い。ジャケット中央のコンパクトな表情に比べて、肩幅はわずかに広くて緩やかなショルダーラインを形作っている。ジャケットと同じチョークストライプで作ったパンツは、股上が深めで渡り幅も広め。ヒップまわりの野暮ったさはそのままに、裾に向かって直下したパンツのラインは、この服がスーツだということを忘れさせるリラックス感。いや、リラックスと述べるのは上品すぎた。シックな生地で仕立てたスーツを着たモデルの姿には、ルームウェアを着ているように緊張感がない。
ジャケットの下には白いシャツを着用して第一ボタンまできっちりと留め、リブ幅が広いVネックのニットをレイヤード。ニットの裾はだらしなく歪み、最高にクラシックな服、最高にクラシックなスタイルだというのに、やさぐれた姿へ。それはまるでヤンキーがスーツを着ているかのようだった。
ブラウンのワークジャケットは、生地の質感が古着屋で見かける上着と同じくノスタルジック。センタープレスのパンツは、ストリートキッズたちが愛するチノパンと同じルーズシルエット。シャツを合わせて端正なスタイルを作ろうとしているのに、シャツの右身頃の裾がウェストからはみ出し、綺麗に着こなすことを嫌う。
2024AWコレクションの「マーガレット ハウエル」は、これまでと同じ素材、同じ色、同じアイテムが見られるのだが、ルックはこれまでよりもフレッシュな印象。変わらないスタイルが魅力のロンドンブランドは、年々変化を加えることで、ブランドの魅力をアップさせていた。
「変わらないことが魅力」とはよく聞く言葉だ。しかし、変わることが醍醐味のファッションにとって、本当に何一つ変わらないことは最先端を競い合うレースからの脱落を意味する。
最先端とは、とびっきりにモードな服のことだけを意味するのではない。一見するとスタンダードなツイードジャケット。だけど、心地よいリラックスシルエットはまさに今という時代そのもの。時代の価値観をシンプルに表現した服も、最先端なのだ。
暖かみある素材も、郷愁を誘う色味も、服の伝統を尊重する姿勢も変わらず、スタイルも何一つ変わっていない「マーガレット ハウエル」。だが、スタイルのバランスを絶妙に崩し、若者たちが着こなすブリティッシュトラッドを完成させ、ブランドの進化を見事に実現した。懐かしさを呼び起こし、刺激を呼び起こす。それが「マーガレット ハウエル」の2024AWコレクション。
シンプルな料理ほど、些細な塩加減で美味しくも不味くもなる。感動と落胆が紙一重の世界を乗り越えた先にあるのは、1度その良さを知ってしまったら忘れることのできない味わい深い料理。
9月に入ると、朝の空気が驚くほど涼しくなった。「マーガレット ハウエル」の旬はもうすぐだ。本格的な秋は、思った以上に早く訪れるかもしれない。と思っていたら、本日の最高気温は34℃。シックな生地を見て、気分だけでも秋に浸ろう。
〈了〉
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ずっとアニメの2期を待ち望んでいるのが「ダーウィンズゲーム」。正体不明のアプリ「ダーウィンズゲーム」を起動させてしまい、異能(シギル)によるバトルに参戦してしまった高校生の須藤 要。当初は人を傷つけることを極力避けようとする要だったが、あることをきっかけにこのバトルゲームへの覚悟を決める。