AFFECTUS No.556
「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison Mihara Yasuhiro)」の新ラインとして誕生した「マイン(MYne)」は、2023AWシーズンからブランド名を「カミヤ(Kamiya)」に変更し、新たなスタートを切った。ディレクターである神谷康司の名を冠したファッションブランドは、シーズンを重ねるごとに迫力を増していく。
「カミヤ」の魅力はなんと言ってもパワフルなヴィンテージ加工。服が真新しいことが罪であるかのように、コレクションに登場するアイテムにはダメージが付随し、長い歳月を経てきた古着の雰囲気を醸す。デニムジャケットの生地は色褪せ、所々に穴が開き、糸がほつれて飛び出す。「マニッシュ・ボーイ(Mannish Boy)」名付けられた最新2025SSコレクションでも、「カミヤ」のヴィンテージ感は力強かった。
象徴的なのはやはりデニム素材のアイテム。色落ちしたジーンズは左右の膝に大きな穴を開け、ハーフパンツとも膝丈スカートとも呼べるボトムも大胆な大きさに穴が開き、裾は切りっぱなしで繊維がたなびく。古着の王者であるカジュアル素材は、「カミヤ」でも絶大な存在感を放っていた。
フランネルのチェックシャツ、迷彩柄のボンバージャケット、白いペイントが飛び散ったジーンズ、植物柄が埋め尽くすプリントシャツ、いずれのアイテムも古着屋を訪れたら目にするアイテム。だが、「カミヤ」はそれぞれの要素をさらにパワーアップさせ、ヴィンテージ感の纏ったニューウェアへと進化させる。
ショーのファーストルックで発表されたボトムは最高にエネルギッシュだ。薄いブルーにまで褪色したルーズシルエットのジーンズは、生地の表面にピンクの花や緑色の茎、枝、葉、赤い果実を宿した木など、様々な植物のグラフィックはある場所では刺繍に見え、ある場所ではパッチワークにも見える。ダイナックな装飾のパンツはファッションショーの始まりを飾った。
ファーストルックには「カミヤ」の新しい一面も現れていた。モデルはダメージ加工の一切ない、上品で滑らかな質感のテーラードジャケットを着用していた。シルエットはカーディガンを羽織るようにリラックスしており、クラシックなジャケットとは一線を画す「カミヤ」ならではのもの。だが、生地の質感だけはこれまでの「カミヤ」ではお目に掛かれなかった、穴やほつれ、色の退行は皆無の綺麗なコンディションだ。両肩付近に、カラフルな植物の刺繍がさりげなく施されてブランドらしさは覗くが、真新しい生地のコンディションは驚きだった。
次のセカンドルックでも、綺麗な状態の生地は登場する。白地にグリーンの葉や渋いオレンジの花が描かれたボタニカルプリントのシャツには、光沢が美しい生地のチノパンツをスタイリングし、古着ワールドに新しさを添える。以降も綺麗な生地のテーラードジャケットは、幾度か登場した。
コレクションの中心は、あくまでライダースジャケットやボーダーニットなどのグランジスタイルだ。ある男性がずっと愛してきたスタイル。ルックからはそんな愛情深いものが感じられる。一方で新たに登場した綺麗なテーラードジャケットは、男性が新たな環境、新たな心境に至ったようにも思う。
本コレクションのタイトル「マニッシュ・ボーイ」は、アメリカのミュージシャンであるマディ・ウォーターズ(Muddy Waters)が1955年に発表した曲。歌詞には、「I am a man(俺は男だ)」というフレーズが何度も歌われる。男にはジャケットが必要な瞬間がある。そんな日を迎えた男たちの装いが、2025SSコレクションに感じられた。絶対に変えることのない大切なものを抱きしめながら、彼は今日を歩いていく。「カミヤ」は男の成長を祝う。
〈了〉
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