エドワード・カミング「執着」と「愛らしさ」

AFFECTUS No.653
デザイナーを読む #2

エドワード・カミング(Edward Cuming)の服を見て浮かぶ言葉は「執着性」だった。生地は切りっぱなしのまま縫い合わされ、カッティングは円や曲線が繰り返し現れ、柄や色は執拗に重ねられる。そこにあるのは、過剰なまでの手つきであり、異様なまでの固執である。

▶︎ ェミニンな世界を反転させたミュウミュウ
可愛さから暗さへ。ミウッチャ・プラダが描いた感情の反転。

切りっぱなしは最も象徴的だ。短冊状に切られた生地を、そのまま縫い合わせて一枚の身頃に見立てたシャツ。縫い代が表に露出し、ヴィンテージのカーペットを思わせるパンツ。円形にくり抜かれたシャツやデニムの膝も、円の縁は切りっぱなしのまま放置されている。通常なら「仕上げ」として隠されるはずのものが、ここでは前景化される。完成を拒否する執着が、未完成をひとつの形式にしている。

円や曲線もまた、彼の服を特徴づける。ジャケットのポケット口はだらしなく垂れ、緩いドレープを作る。直線的な切り替えではなく、曲線的な縫い目が服の表情を曖昧に揺らす。そこにあるのは硬さではなく、緩みである。シャープさやソリッドさが長くメンズウェアを支えてきたのだとすれば、カミングはその軸から意図的にずらしている。

柄の扱いも執着的だ。マルチボーダーの上にレインボーストライプを合わせ、ヒッコリーストライプのパンツをロールアップすると、裏側には別のストライプが現れる。一つの柄で完結させず、別の柄を持ち出して繰り返し重ねる。抑制ではなく過剰。整合ではなく違和。そこから生まれるのは、奇妙な調和だった。

▶︎ 服から服を発想する研究家マルタン・マルジェラ
執着の先に、新しい服の形式を見出したデザイナー。

そして色。ブルーやピンク、グリーンといった鮮やかな色彩が差し込まれ、ブラックやネイビー、ブラウンと並置される。全体は決してポップに振り切れないが、確かに「可愛さ」が差し込まれている。緩やかなシルエットと相まって、クラシックなメンズにはなかったフェミニンな柔らかさが立ち上がっている。

カミングが対象とするのは、ジーンズ、シャツ、ジャケットといった古典的アイテムだ。それらは長らく「完成」「直線」「抑制」「威厳」を支えるための装置であった。だが彼は、それらの表層を書き換える。切りっぱなしで未完成を晒し、曲線で権威を緩め、柄や色を執拗に重ね、愛らしさへと変換する。

つまりエドワード・カミングの服は、メンズウェアが抑圧してきた柔らかさを回復する実験である。未完成の美を認め、権威を緩め、秩序を執着で上書きし、フェミニンを移植する。その矛盾の構造こそが、いまメンズウェアに必要とされている感覚なのかもしれない。

ジーンズやシャツやジャケット。普遍のかたちを、執着を通して愛らしさに書き換える。その先に見えてくるのは、いまだ言葉にならない感覚である。愛らしさの影に執着が残り、執着の果てに愛らしさが立ち上がる。その往復の中に、新しいメンズウェアの地平が横たわっている。

〈了〉

▶︎ 純白すぎるほど純白のロイシン ピアス
幻想の白がもたらすのは、穏やかな夢の感覚。